東京大学 大気海洋研究所 気候システム研究系 気候モデリング研究部門

海洋システムモデリング研究分野

    


私たちはコンピュータシミュレーションを用いて海を研究しています。研究の背景概要については、このページの後の方をご覧ください。

より詳しい研究内容については、各メンバーのページをご覧ください。


トピックス

2017年夏の北極海氷分布予測 (2017.05.19公開)


メンバー(2017年4月現在)

教員

羽角 博康 (教授)

研究内容:海洋深層循環、極域海洋物理、太平洋の循環と気候、沿岸・大陸棚過程

岡 顕 (准教授)

研究内容:海洋深層循環、古海洋変動、海洋炭素・物質循環

川崎 高雄 (特任助教)

研究内容:海洋大循環、太平洋中深層循環、北極海洋循環、北大西洋深層水形成

研究員

木村 詞明

研究内容:海氷変動、大気―海洋―海氷相互作用、衛星リモートセンシング

坂本 天

研究内容:沿岸物理過程、沿岸物質循環、沿岸低次生産過程

干場 康博

研究内容:河川影響海域、北太平洋域、物質循環、海洋生態系モデル

佐伯 立

研究内容:極域海洋モデリング、海洋力学、海氷―海洋相互作用、アイスバンド

桂 将太

研究内容:太平洋亜熱帯域、塩分構造、三陸沿岸、アワビ粒子追跡

学生

小林 英貴 (D3)

研究内容:海洋深層大循環、海洋物質循環・炭素循環、古気候変動(第四紀)

外川 一記 (M2)

研究内容:海洋深層循環、古海洋変動、最終氷期最盛期

中村 有紀 (M2)

研究内容:物質循環・炭素循環、海洋生態系、温暖化の影響評価

過去のメンバー(在籍期間、および現職研究者は現所属)

小室 芳樹(1999~2006, 海洋研究開発機構)
渡邉 英嗣(2002~2008, 海洋研究開発機構)
松村 義正(2003~2011, 東京大学大気海洋研究所)
建部 洋晶(2005~2009, 海洋研究開発機構)
加藤 聖也(2005~2007)
渡辺 路夫(2007~2010, 東京大学大気海洋研究所)
浦川 昇吾(2006~2014, 気象庁気象研究所)
黒木 聖夫(2007~2008, 海洋研究開発機構)
草原 和弥(2007~2013, Antarctic Climate & Ecosystems Cooperative Research Centre, Australia)
笹島 雄一郎(2007~2010)
平池 友梨(2010~2013)
山下 文弘(2010~2012)
廣田 和也(2011~2016)
浅山 大樹(2012~2014)
阿部 泰人(2016, 北海道大学大学院水産科学研究院)

リンク

開発している数値モデル等

海洋大循環モデル COCO

参画研究プロジェクト等

北極域研究推進プロジェクト(ArCS)

海洋混合学の創設(OMIX)

気候変動リスク情報創生プログラム(SOUSEI)

東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS)

セミナー等

海洋物理学・気候力学セミナー



海洋大循環と気候

海洋と気候

地球に入る太陽放射エネルギーは、赤道で最も大きく、極に向かうにしたがって小さくなります。海洋や大気の流れは、高緯度側へ熱エネルギーを輸送することで、低緯度と高緯度の間の温度差を緩和する役割を果たします。海洋は大気に比べて大きな質量を持つため、熱や二酸化炭素を多く貯蔵して気候状態を安定化させる働きを持ちます。海洋の流れの中でも、表層と深層をつなぎ千年程度の時間をかけて全海洋を巡る全球海洋熱塩循環は、気候の長期的な安定性や大規模変動にとって重要です。全球海洋熱塩循環の実態と成因には未知な点が数多く残されています。我々のグループでは、全球海洋熱塩循環を中心として、様々な海洋現象とそれを通した気候現象の解明を目指しています。


全球海洋熱塩循環の模式図。高緯度海域での深層水形成を起点とし、約3000年の時間をかけて全海洋を巡る。

海洋の構造

海洋を上下方向に見た場合、海面から数十メートル深までの温度・塩分がほとんど一様な海面混合層、数百メートル深にある温度が急激に変化する温度躍層、さらに下層の深層に分類できます。海面混合層は日々の天気の変化から季節変動といった日~数年程度以下の時間スケールの海面水温変化に大きな影響を及ぼします。エルニーニョ現象に代表されるような数年から数十年の時間スケールを持つ気候変動に対しては、温度躍層より上の上層海洋の応答が重要となります。深層海洋の影響は、氷期における急激な気候変動・氷期間氷期サイクル・気候温暖化など、百年から千年を超えるような長い時間スケールを持つ現象に対して本質的です。

西経30度(大西洋中央)に沿う水温(上)と塩分(下)の分布

全球海洋熱塩循環

概要

海水の密度は温度と塩分で決まり、海面での熱や淡水の交換により海水の密度は変化します。熱塩循環は高緯度域での局所的な深層水形成とその他の海域での深層水上昇で特徴づけられます。熱塩循環の駆動には表層の軽い水と深層の重い水が上下方向に混ぜられることが必要ですが、その主なエネルギー源は月や太陽からの引力による潮汐であることが判明しています。潮汐で生じた海水の流れが海山などの起伏にぶつかると波が発生し、その波はいずれ砕けて乱流混合をもたらします。

深層水形成

現在の海洋では、グリーンランド海・ラブラドル海・南極大陸周辺の大陸棚上といった限られた海域のみで深層水形成が起こっています。グリーンランド海とラブラドル海では、高塩分であるメキシコ湾流から続く海流が冷却を受け、海水が高密度化して深層へと沈んだ結果、大西洋や南大洋の深層を占める北大西洋深層水が形成されます。一方、南極大陸周辺では、冷却されることに加えて、海水が凍る時に排出される高塩分水の影響を受けることで高密度海水が作られます。南極大陸周囲の海洋は冬季には海氷で覆われますが、局所的に海氷に覆われない沿岸ポリニヤと呼ばれる領域が存在し、そこでは特に大きな冷却と海氷生成が起こります。その結果として形成される高密度水は、大陸棚上から大陸斜面を下って海底まで沈み込み、全海洋の最も深い部分を占める南極底層水となります。

現在とは大きく異なる気候状態であった氷期には大気中二酸化炭素濃度が低かったことが知られていますが、そこには深層水形成領域や形成量の違いが影響していたと考えられています。また、気候温暖化に伴う深層水形成領域での海水温上昇や塩分低下は、全球海洋熱塩循環を大きく変化させることが懸念されています。深層水形成の変化に対する全球海洋熱塩循環の応答は、長期かつ大規模な気候変動を理解し予測するための重要な鍵のひとつです。

南極周囲の年間海氷生産量(メートル)の数値モデリング結果

南極周囲での北大西洋深層水貫入と南極底層水形成に関する数値モデリング結果(東経140度断面)

数値モデリング

全球海洋熱塩循環は全地球規模の大きな現象ですが、乱流という非常に小さな規模の現象、深層水形成という非常に局在化した現象、黒潮やメキシコ湾流などの表層の強い海流、海洋のいたるところに存在する中小規模の渦など、海洋に存在する様々な時空間スケールを持つ現象と相互に関係しています。さらに、深層海洋や極域海洋は観測が困難なため、まだわからない現象もたくさんあります。こうした複雑かつ未知の現象に対しては実験による研究が有効ですが、海洋そのもので実験をすることは不可能です。我々は、海洋の状態をコンピュータ上で再現する数値モデルを用いることにより、数値実験を通してその解明に取り組んでいます。

  

海洋数値モデルの例。ラブラドル海の深層水形成を対象とした数値モデルの水平格子。



海洋循環の数値モデリング ~スーパーコンピュータの中の海~

深海の流れ

全球海洋熱塩循環の中でも、大西洋の北の端で沈む北大西洋深層水を運ぶ流れは、気候の中で特に重要な役割を果たしています。この流れは温度が低い海水を大量に北大西洋から南大西洋に運ぶ一方、北大西洋深層水の形成領域に向かう海面付近の流れは温度が高い海水を大量に南大西洋から北大西洋に運びます。その結果として、大西洋では南半球から北半球へ多くの熱が運ばれ、その熱は北大西洋の北にある北極海にまで達します。北緯60度を超える高緯度にある北欧に人が住めるのは、全球海洋熱塩循環が熱を運ぶおかげです。今から2万年ほど前の氷期にはこの流れが弱かったことが知られており、北大西洋周辺が今と比べて特に寒かったことの原因だと考えられています。

数値モデルでシミュレートされた大西洋の東西平均循環(子午面循環流線関数:線に沿う循環があることを示す)。上:現在、下:氷期。

深海の流れは海面付近に比べると穏やかです。長い時間の平均で見た場合、例えば日本沿岸の海面付近を流れる黒潮の速さは毎秒1メートル以上に達しますが、深海の流れは海のどこでも毎秒10センチメートルを超えることはまれです。しかし、瞬間で見た場合には、潮流や渦によって深海にも強い流れや激しい変動が存在し、それらが全球海洋熱塩循環に大きく影響します。

数値モデルでシミュレートされたアフリカ大陸南沖の深さ2000メートル付近における水温。異なる温度を持つ海水が活発な渦運動で混合されている。この混合がどれだけ起こるのかが、全世界の海の最も深い部分を流れる南極底層水の量を大きく左右する。

北太平洋の海流

深層水形成で深海に沈んだ海水はゆっくりと全世界の海をめぐり、一番最後に北太平洋にたどり着きます。しかし、北太平洋にどれだけの深層水が流れ込み、どこで上昇し、どこに向かって戻っていくのかはまだあまりわかっておらず、概略図さえ示すことができません。この謎を解く鍵が、深海で起こっている乱流混合という非常に小さな規模の現象です。1メートルに満たない大きさの現象が全世界の海の流れに効くことが、難しくも面白くもあるところです。

全球海洋熱塩循環の謎、「冷水路」の想像経路(橙矢印)。北太平洋で上昇する深層水の一部は、海面付近まで上昇せず、太平洋の東を通って深層水形成領域に戻ると考えられている。

北太平洋はまた、世界で最も生物生産が活発な海域であり、深層水上昇にともなう深海からの栄養物質供給がそれを支えています。この生物生産により北太平洋は大気中の二酸化炭素を多く吸収します。一方で、海による二酸化炭素吸収は海洋酸性化を引き起こします。北太平洋で吸収された二酸化炭素がどのような道筋で海の中を運ばれるのかは、今後の気候温暖化や海洋生態系にとって重要ですが、まだはっきりとわかっていません。それを知るためには、黒潮や親潮といった世界有数の強い海流とそれにともなう渦運動が作る、海面から深さ1000メートル程度に達する流れを解き明かす必要があります。

千島列島付近に存在する強い乱流混合が引き起こす北太平洋循環の概念図。

北極・南極の海

北極や南極の海は、近年の気候温暖化の中で特に大きく変化している海域であるとともに、全球海洋熱塩循環の起点となる深層水形成が起こる海域でもあります。また、海氷や氷床といった氷と深くかかわることにも特徴があります。

北極海の氷は近年減り続けていますが、太平洋に近い側での減少が特に大きく、太平洋から北極海に流れ込む暖かい海水の行き先が変わったことがその原因です。大西洋からはもっと暖かい海水が北極海に流れ込んでいます。現在のところそれは北極海の氷を溶かすようにはあまり働いていませんが、将来の気候変化の中では大激減をもたらす可能性が指摘されています。

  

(左)数値モデルでシミュレートされた北極海の深さ200メートル付近における水温。メキシコ湾流を起源とする暖かい海水が北極海に流れ込んでいる。(右)左図黒枠内の拡大図。暖かい海水が沿岸付近を強く細い海流として流れるとともに、そこから小さな渦がちぎれて北極海内部に暖かい海水を運んでいる。

南極大陸の周囲をとりまく南大洋の深さ2000メートル付近には、大西洋の北の端で沈んだ北大西洋深層水がたどり着きます。この深層水は南極の大陸棚上に引き上げられ、棚氷(南極大陸の氷床が海上に突き出した部分)を溶かす役割を果たすとともに、海水凍結の影響を受けて全世界の海の最も深い部分を占める南極底層水になります。こうした現象は全球海洋熱塩循環にも気候にもとても重要ですが、こうしたことが起こっていることはわかっていても、具体的に「どこで・どうして・どれだけ」なのかはまだまだわかっていません。

数値モデルでシミュレートされた南極棚氷下面の融解速度。

氷期など現在とは大きく違う気候について知ることは、気候の成り立ちそのものを理解するためにはもちろんのこと、将来の気候を正しく予測する数値モデルを作成するためにも役立ちます。氷期が現在より寒かった直接の原因のひとつは大気中の二酸化炭素が少なかったことですが、そこには南大洋が大きな役割を果たしていた可能性が指摘されています。氷期では棚氷や海氷の分布が現在と大きく異なっており、それと関連して南極周囲での深層水形成が現在とはかなり違っていたことが知られています。その結果として、南大洋は深海に大量の炭素をたくわえ、大気中の二酸化炭素を減らす働きを持っていたと考えられます。

数値モデルでシミュレートされた南半球冬季の海氷分布。上:現在気候、下:氷期。

沿岸域と外洋域の海水交換

陸から川を通して海に流れ込む水や物質は、沿岸域の海洋環境はもとより、全世界規模の海洋循環や物質循環においても重要です。また一方で、沿岸域の海洋環境は外洋域からも大きな影響を受けます。沿岸域と外洋域は海としてつながっていますが、地形など様々な原因によって海水の交換が大きく制限されています。この海水交換がどこでどうして起こるかを知ることは、沿岸海洋環境の観点からも、深層水の引き上げを通した全球海洋熱塩循環の観点からも、とても重要です。

数値モデルでシミュレートされた三陸沖の海面水温。三陸沖には通常は津軽暖水という暖かい海水が流れているが、親潮を起源とする冷水が渦に取り込まれてが岸に近づくことがある。

数値モデルでシミュレートされた三陸沿岸冷水接岸時の大槌湾水温(左:海面、右:海底)。海底付近から冷たい海水が流入している様子がわかる。こうした現象は養殖漁業に大きな影響を及ぼすことがある。