西南極氷床の安定性に関する記事

http://mashable.com/2014/05/12/west-antarctic-ice-sheet-collapse/

 月曜日にプレスリリースされた複数の論文によると、西南極氷床を集水域として南極海に流れ込む氷河が急速に不安定になってきており、早ければ現在から200年程度以内の崩壊が避けられない状況に達していることが明らかになった。さらに、これらの氷河の流出はもはや止まらないことが示された。 これらの氷河は上流部の氷床をも巻き込み、海水準上昇の程度を劇的に大きくしうることも分かった。西南極(氷の体積で南極の10%しか占めない)にある氷河は、現在における南極氷床起源の海面上昇の大部分を担っている。もしこれらの氷河がすべて流出すれば海面は1.2メートル上昇し、世界中の沿岸の巨大都市が浸水する。もし西南極氷床の安定性までも失われるならば、海面上昇は4から5メートルに達する。
 月曜日に公表された2つの研究によって、近年の西南極における氷河の流出がより詳細に記述された。また、海水からの熱供給による棚氷底での融解の速度が現在からどの程度増えたときに氷河が急速に失われるかが初めて予測された。両研究は、南極の氷河での降雪量の増加が予測されているにもかかわらず、近年の氷の消失の減速や停止はおそらく起きないことを示している。これは氷河の下にある地形と海水浮力により、一度氷河の後退が起こると自発的な後退の停止がおきないという氷河の力学的特性のためである。

 ワシントン大学の研究グループによる研究http://www.sciencemag.org/content/344/6185/735では、近年の西南極Thwaites氷河の消失と氷の流動を調査した。氷河氷床モデルを用いたコンピュータシミュレーションによって今後数世紀の氷河の変化を予測した。木曜日にサイエンス誌から出版される論文では、"氷河崩壊の初期段階はすでに始まった"としている。

 Thwaites氷河をはじめ、南極のアムンゼン海に沿って分布する氷河群の先端部は海洋上に張り出す棚氷となって、上流側にある氷床の流れをせきとめている。過去十年ないし数十年の間の気候変化によって南極周りの風が強化され、暖かい海水を海面付近まで運び氷を底から融解させ棚氷を薄くした。これによって"接地線"と呼ばれる陸上の氷/棚氷/海洋の境界をより内陸に後退させた。Thwaites氷河をはじめとするアムンゼン海の氷河は接地線が後退し、海洋への流出が加速しており不安定性を増している。Thwaites氷河を含むアムンゼン海の6つの氷河が、2005年から2010年の間の全球海面上昇のうちの10%を担っていたことがある先行研究*により示されている。今回の研究によって、Thwaites氷河の接地線は海面下600mの窪地に落ち着いていることがわかった。しかしそこから内陸側に75km移動すれば海底地形の海面下1200mの深い谷に達する。この構造は、海水が氷河面をつたって内陸に達するのをたやすくしている。論文中では、"現在も氷河が薄くなっていることに加え、たった数十kmしか海底地形の最も深い地点と接地線が離れていないを考えると、たとえ接地線の後退の速度が緩やかなものだとしても、Thwaites氷河の崩壊はすでに始まっているのかもしれない"と述べている。

 将来予測によると、最悪のシナリオではThwaites氷河の急速な後退は今後200年以内に起こる。ゆっくり起こる場合はおよそ1000年かかるとみられている。シミュレーションによる氷河の崩壊が起こる時期については不確実性が大きいことは考慮しなければならないものの、海洋観測による棚氷融解の観測は、最も高い融解シナリオがより現実的であることを示唆している。海面上昇の速度を正しく推定することは社会の環境変動への適応策を決定する助けになる。この論文の著者であるワシントン大学応用物理研究所の雪氷学者Ian Joughinが本誌に語った。

 I. Joughin「氷河の崩壊が200年で起こるか800年で起こるかは大違いです。なぜならば社会にとって重要なのは海面上昇の幅よりも海面上昇の速度だからです。」

 将来予測から明らかなことは、氷河が成長する速度よりも、融解する速度が大きくなっていくということである。

 I. Joughin「ある程度の応答の遅れをもつにせよ、何らかのフィードバックを受けて氷河の流動が遅くなるかどうかは知られていませんでした。私たちのモデルシミュレーションでは、すべてのフィードバックは時間がたつにつれて氷河を加速させるように働きました。氷河を安定化させるメカニズムは1つもありませんでした。」

 もしアムンゼン海の氷河の急速な崩壊がひとたびおこれば、西南極氷床全体を不安定化させる可能性が高いということがこの研究から示されている。

 これとは別の研究http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2014GL060140/abstractによると、1992年から2011年にかけて西南極の氷河の接地線はより深い場所に後退し、暖かい海水を氷の下に流入させるような状況を生み出し氷床をいっそう不安定にしてきたことが示された。さらに氷床の流出の加速は接地線付近にとどまらず、棚氷から200kmも上流の内陸の氷床にも影響を及ぼしていることが示された。この研究はコンピュータモデルではなく、衛星、航空機、地上観測から得られたデータを主として用いている。
 この論文の筆頭著者であるカリフォルニア州パサデナにあるNASAジェット推進研究所の雪氷学者Eric Rignotによると、新たに得られたデータから、氷河の上流部の海底地形には氷河の海洋への流出をせき止めたりするための高地や盛り上がりがまったく存在しないことが分かった。さらにRignotは、氷河を融解させる熱源となっている海洋の暖かい水がなくなる可能性は非常に低いと述べている。というのも、人為起源の地球温暖化が続くことにより、アムンゼン海の棚氷にはより温暖な水塊が流れてくるようになると予測されているからである。

 これまでの研究により、南極への温暖な海水の輸送、人為起源の地球温暖化、南極の大気循環の変化、自然起源の気候変動という現象が結び付けられてきた。そして、南極におきているこれらの変動が、オゾン層の減少と関係しているかもしれないという証拠が複数存在している。

 記者会見でRignotは、南極アムンゼン海の氷床氷河の後退は止められないと結論付けるのに、観測から得られる証拠はもはや十分であると述べた。

 E. Rignot「氷河の崩壊は、世界中で海面上昇を起こすことになります。西南極の氷河群が崩壊するのならば、他の西南極氷床の集水域にも影響を与え、海面上昇をさらに加速させるでしょう。」

 Rignotは「崩壊」は氷河学では独自の意味を持つことを注意してほしいと呼び掛けている。

 E. Rignot「多くの人々が"崩壊"という言葉のイメージでとらえるのは、今後数年以内に起こるような破滅的な出来事を想像するでしょう。しかし氷河学者は、数百年程度かけておきるとてもゆっくりとした氷河の後退のことを話しているのです。これらの氷河が今後数十年ないし数百年間後退し続けることが濃厚だと言っているのです。」

 Rignotの研究はGRLにて出版予定である。

* J. Mouginot et al., Sustained increase in ice discharge from the Amundsen Sea Embayment, West Antarctica, from 1973 to 2013, GRL, 2013.