少年の夢

 

 October Skyという映画がある。炭坑町のロケット少年グループが親との確執を乗り越えて地区の科学コンテストで優勝する話である。映画のエピローグでセピア色の昔のシーンがスペースシャトルの画像に変わり、ナレーションは主人公がその後、NASAの技術者になることを告げて終わる。小学校の時にロケットもどきを作るのに夢中だった頃のことを思い出して感激した。この映画を見たのは、日欧協力のEarthCARE衛星ミッション提案に奔走していた1999年で、スペイン・グラナダで開かれた評価委員会に出席した直前であった。同じ会議に出席したJAXA職員の寺田弘慈氏も同じ映画を見ていて、「僕たちもがんばろうね」と声をかけあった・・・

 上のようなことを、この5月にCLOUDSAT衛星からのファーストライト・イメージが降りて来た時に思い出した。このCLOUDSAT衛星については、1996年頃にコロラド州立大学のGraeme Stephens先生と、ミッション協力をJAXAにお願いした経緯がある。結局、JAXAはだめで、Stephens先生はカナダの支援を得て実現にこぎつけた。EarthCARE衛星の先行ミッションに当たるこの衛星には、雲レーダーと呼ばれる95GHz(波長3ミリメーター)の新しい測雲レーダーが搭載されている。それが十年の歳月を経てデータを宇宙から送って来たのである。おめでとうーである。

 IPCC等による評価から良く知られているように、二酸化炭素濃度が倍増した時の全球平均地表気温上昇はモデルによって2倍程度ばらついていて、温暖化現象の解明における大きな懸案事項になっている。このようなばらつきの主原因のひとつは、雲のモデリングの不完全さである。温暖化に伴って低層雲が増えれば温暖化は減速し、上層の薄い雲が増えれば加速されるが、予想される将来の雲変化はモデルによって大きく違う。さらに大気汚染によって雲がどのように変化するかもよくモデル化できていない。このために、ここ数年間、欧米では雲物理への関心が再び高まりつつある。そのような研究にとって、大きな大砲のような武器となるのが衛星搭載雲レーダーやライダーである。降雨レーダーと違って、この雲レーダーはミリ波を利用することにより、10ミクロン程度の小さな雲粒子まで観測できる。これをさらに感度の高いライダーと組み合わせる新しい衛星観測手法は、問題になっている雲の全球モデリング改善のための新たなデータを供給することが期待されている。例えば、気候システム研究センターでは全球非静力学モデル(NICAM)による全球の雲モデリング研究をおこっているが、このような衛星データのNICAMによる解析は、モデル改善に大きく寄与するはずである。

 衛星ミッションの立ち上げやエアロゾル・雲研究に夢中だったこの十年一日の研究生活を振り返ってみると、それもまた少年の夢かなと思う。そして、そのような少年の夢が新しい雲モデリングの最先端研究と出会ってますますおもしろいことになってきた・・・   (中島映至)

 

図の説明:GOES衛星によるハリケーンBudの赤外温度画像とCLOUDSATレーダー・エコーの鉛直・水平断面図(コロラド州立大学CIRA提供)(a)と、3.5km版NICAMモデルによる全球雲再現例(b)。