新しい気候研究の鼓動
東京大学気候システム研究センター長、教授 中島映至
(平成19年度 CCSRパンフレット巻頭言から)
平成18年度から19年度にかけて、気候システム研究センターは新旧の活動が入り交じる相転移の時期にあると言えます。平成19年2月には当センターも大きく貢献したIPCC第1作業部会の第4次報告書が発表されました。報告書では、地球温暖化現象が実際に発生していることが科学的にも確度の高いと結論されて、社会的にも大きな関心を呼びました。季節の折々にそのことを思わせる様々な気象現象や氷河/海氷の減少なども報告されています。当センターでは、このような気候の形成と変動現象の理解、およびその予測可能性の研究を行っていますが、プロジェクト的に見ると、この時期、新旧のプロジェクトの交代が見られました。まず、人・自然・地球共生プロジェクト(RR2002)の最終年になり、地球シミュレーターで計算された20世紀再現と21世紀予測の計算結果がまとめられました。その中で、太陽出力変化、火山活動、そして人為起源物質が引き起こす気候変動を、明確な科学的根拠をもって示すことができたと思います。今年度からは、RR2002の後継とも言える「21世紀気候変動予測革新プログラム」が始まりました。
当センターは全国共同利用施設として、全国の大学研究者がこのような研究のために気候モデルを利用できる環境の整備を図ってきましたが、今年度からはさらに研究センター間の連携を強化するために、東大、東北大、千葉大、名古屋大学の気候研究に関わる研究センターが協力して、特別教育研究経費事業「地球気候系の診断に関わるバーチャルラボラトリーの形成」をスタートさせました。同時に、企業連合が作る「気候環境アプリケーション創成ソーシアム」との共同研究も始まりました。
これらの出来事は、気候モデルが研究と社会応用のさまざまな場面で利用される時代が到来したことを意味しており、我が国の気候モデリング研究が揺籃期を経て成熟期に入ったことを物語っています。この時期はまた、地球観測に関しても人工衛星等によるさまざまなデータが得られ始め、「地球観測の黄金期」とも言われています。すなわち、気候モデリングと地球観測の両面で、非常に充実した時代が到来したと言えます。しかし、科学とは常に現状を脱して新たな発展を生み出すように運命付けられており、その意味で、我々はこの時代に新しい気候モデリング研究が芽生えつつあることを感じています。たとえば、ESSPなどのイニシアチブによって、まさにヒューマンディメンジョンを加えた生態系・社会系を含めた総合的なサイエンスに耐えられるようなモデリングが求められつつあります。
知識のるつぼである大学組織としての気候システム研究センターにとって、このような新しい研究の芽を育てることが非常に重要であると思っています。振り返ってみても、規模的には大きくない当センターでは1991年の設立以来、教員と学生が一体になって未知の問題に恐れずに取り組むと言う伝統を育ててきました。このような初心を忘れること無く、気候システム研究センターでは、これからもさまざまなディメンジョンで気候研究をより一層、発展させていきたいと思っていますので、皆様の協力をお願いします。