大学と気候研究
東京大学気候システム研究センター長、教授 中島映至
(2006年11月29日 CCSR公開講座再開にあたっての挨拶から)
本日は、東京大学気候システム研究センターと伊藤忠商事株式会社共催の公開講座「変化する気候」にお集まりいただき、大変ありがとうございます。共催者を代表して御礼を申し上げます。この公開講座ですが、駒場キャンパスから柏キャンパスへの当センターの移転(2005年)や大学法人化(2004年)などのために、しばらく中断しておりましたが、ここに再開することができて喜ばしい限りであると思っております。この3−4年は、当センターを含めた大学関係者にとって、まさに激動の時代であったと思います。
激動の時代といえば、みなさん覚えているでしょうか?1969年のこの安田講堂のことを。当時、この安田講堂は大学紛争の中で封鎖されていました。私は受験生だったので、受験はどうなるんだろうとテレビに見入っていました。それから大学に入ったのですが、その時に二酸化炭素の濃度は330 ppm(体積比で百万分の330)と教わりました。しかし、今の子供たちの教科書にはおそらく360 ppmと書かれているのではないでしょうか?現在、もっと増えています。これは驚くべきことです。ひとりの人間の半生程度の時間の間にこんなにも大気環境が変化しているのです。このような二酸化炭素の増加は、われわれの言葉で言うと、温室効果を引き起こし、地球温暖化の原因になります。まあ、気候変動の原因論にはいろいろな説があり、温室効果即、温暖化というわけではありませんが、しかしいま、何かが起こり始めているのは確かです。カトリーナなどの巨大熱帯性低気圧の発生や暖かい春秋のこと、なんとなく昔と違ってきたと感じている方が多いと思います。われわれプロも確かに著しい気候変動が起こり始めていると思っています。
それで、本公開講座を再開するにあたって、テーマをどうしようかという段階で、私は何の迷いもなく「変化する気候」というタイトルに決めました。最近、「温暖化は起こっているか?」、「気候変化が起こっているかも知れない」というタイトルのシンポジウムが良く開かれていますが、すでに気候は顕著な変化をし始めているのです。
このような温暖化現象に対して、対策、教育など社会のさまざまな連携が必要になっていますが、緊張型の日本人はともすると、重苦しい雰囲気で「どうしよう、どうしよう」となってしまいがちです。しかし、ここは大学です。自由な雰囲気の中でこの問題について考えてみようではありませんか。大学では、学園紛争以来、いろいろなものが変わってきました。産学連携もそのひとつです。今回は、環境対策に早くから取り組んでいる伊藤忠商事を共催者に迎えましたが、一昔前ならば「悪徳商社は大学から出て行け」となっていたでしょう。そのように大きく変わってきた大学の中で、ただ、変わらないものもあります。それは「学問の自由」というものです。この公開講座では、変化する気候について、大学スタイルの話をしてみようと思います。つまり、「これこれをしなければならない」ということを少し忘れて、気候変動の問題をサイエンスとして考えてみようと思います。そのようなリラックスした自由な見方から、逆にいろいろな疑問が出てくると思っています。ものが冷静に見えてくるはずです。
本日はまず、本センターの木本昌秀教授と阿部彩子助教授から、何が起こっているのかを話してもらいます。そして、第2部で新しい試みとして、パネルディスカッションを通して問題の検討を深めたいと思います。そのために、モデレータに素晴らしいゲストとして環境ジャーナリストの枝廣淳子さんと、パネリストに伊藤忠商事から清水寿郎さんを迎えました。
講義を良く聴いていただければ・・・良く聴かないとわからないかも知れませんが・・・、長い地球史の観点で俯瞰してみると、温暖化などの気候の変化というものが非常に不思議なもので、ものすごくスケールの大きなものであることを感じ取っていただけると思います。
それではお楽しみ下さい。よろしくお願いします。