気候変動の謎に挑む
温暖化すると、温帯低気圧の通過は増えるか、減るか?
温帯低気圧は、秋〜春にかけて繰り返しよく通過します。「三寒四温」の諺どおりの変わりやすい天気と関係があります。この低気圧は、熱帯側の暖気と北極側の寒気の温度差を解消する役割があります。温暖化するとその温度差が小さくなるので、低気圧活動の減少が予想されます。しかし、シュミレーション実験では必ずしもそうとはいえない結果となりました。
図
温暖化(二酸化炭素濃度が倍)の実
験と現状での実験との、上空約9km
の温帯低気圧の活動(運動エネルギ
ー)の差。日本から太平洋上で低気
圧活動が活発(赤色)になっている。
高解像度モデルによってシミュレートされた温暖化時の日本の降水量の変化
計算速度の速い最新のコンピュータが導入されて、これまでよりも解像度の高い大気大循環モデルによって地球温暖化時に日本付近の天候がどう変化するかを検討することができるようになりました。図1はCO2が2倍になったときと現在の状態のときの日本付近の降水の変化を降水量別にグラフにしたものです。20mm/day以下の比較的小雨は減少し、20mm/day以上の大雨が増加していることがわかります。図2は1月と7月の無降水日数の変化を示しています。雨の降る日数が夏季に増加し、冬季に減少しています。このことから、温暖化が起こると、日本付近では梅雨が長引き、冬の日本海側の降雪が減少するのではないかと予想されます。大気大循環モデルにはまだ改良するべきところがありますが、地域的な気候の特徴も再現できる全球モデルとして、大変有用であると期待されています。
図1
日本付近(125-140E, 25-35N)の降水量の
二酸化炭素2倍時の通常時に対する変化。
横軸が階級(mm/day)、縦軸が頻度×降水量。
図2
無降水日数(降水量が1mm/day未満の日数)の
二酸化炭素倍増時の通常時に対する変化。
単位は日数/月
春のシベリア域地表面気温が初夏の東アジアの気候にもたらす影響
日本付近の梅雨の年々変動の一つの要因となるオホーツク海高気圧は、上空にブロッキング高気圧を伴うことが知られています。他方、その上流のシベリア域では、融雪期である4月に地表面気温が年によって大きく変動します。過去54年間のデータの解析により、初夏のオホーツク海上近傍のブロッキング高気圧の生成頻度は、シベリア域の春の地上気温に大きな影響を受けていることが明らかになりました。図に示したように、4月にシベリア域(80-140°E, 50-70°N)が高温であった年の春から夏にかけて(4月〜7月上旬)、ブロッキングが平年に比べ多く観測されています。このことは、春先のシベリア域に、引き続く初夏の東アジアの気候変動のシグナルが存在することを示しています。例えば、4月にシベリア域の地表面気温が高かった年には、地表面付近のオホーツク海高気圧は強化され、それに伴い北日本は冷夏、多雨傾向にあります。
図
過去54年間の観測データから検出した10日あたりのブロッキング回数
(赤い線は4月にシベリア域の地表面気温が高かった年のみの平均、暗
赤色の線は54年平均値。標準偏差を薄赤色の帯で示した)の春から夏に
かけての季節進行。黒線は、シベリア域の地表面気温が高かった年のみで
平均した地表面気温。
2003年の異常気象
―欧州熱波と日本の冷夏―
2003年夏、ヨーロッパを中心として猛暑となり、フランスでは1万人を超す死者が出るほどの異常気象となりました。その一方、日本では10年ぶりの冷夏となり、農作物に多大な被害をもたらしました。2003年北半球夏季の気候場(図)を見ると、ヨーロッパの猛暑および日本の冷夏が、定常ロスビー波と関連したものであるということが示唆されます。また、図の6月の状況について着目してみると、波源は5月から8月まで通して存在している北大西洋上の低温偏差であると推測できます。こうした異常気象については、観測データの解析からメカニズムを探るとともに、大気大循環モデルを用いたシミュレーションによって現象解明に取り組んでいます。
図
2003年5〜8月の月平均海面水温偏差
(陰影:0.5℃毎)、250hPa面高度偏差
(等値線:50m毎、零線は略)、
波の活動度フラックス(矢印:右下→40m²/s²に相当)