雲とエアロゾル


はじめに

 光(放射)伝達過程に関与する大気組成は、水蒸気や二酸化炭素のような気体組成とエアロゾルや雲などの粒子組成がありますが、本グループはどちらかと言うと粒子に関連した現象に興味を持っています。温室効果気体とエアロゾル大気中の微粒子(エアロゾル)は、大気汚染、植生燃焼などからも作り出されますので、それらの研究と雲への影響などにも研究が及んでいます。黄砂などの砂塵嵐の研究も行っています。

 また、放射伝達と言うのは、衛星リモートセンシングにも必要な知識なので、本グループはモデリングのみならず、衛星リモートセンシングや地上における放射・エアロゾル・雲観測も行うことによって気候形成とその変動、人間活動の影響の問題を考えます


放射過程と気候の形成

 大気と海洋の大循環を駆動しているのは、太陽放射エネルギーによる加熱と地球放射と呼ばれる熱赤外放射の散逸による冷却過程です。このような太陽放射と地球放射は大気組成によって複雑に吸収・射出・散乱されます(図1)。

このような放射と気候形成に関連する重要なプロセスには次のようなものがあります。

A. 水蒸気や二酸化炭素等の温室効果ガスは、温室効果によって地表付近を適度な温度に保っている。

B. 高い反射率を持つ雲や雪氷面は日傘効果によって地表付近の過渡な昇温を防いでいる。

C. 大気と海洋の大循環は熱輸送によって地球上の様々な場所の温度を適切に維持している。

D. 水蒸気−雲−降雨サイクルによって大気中の水循環が起こっている。

E. 大気微粒子(エアロゾル)は雲凝結核として雲形成過程をコントロールしている。

 これらのプロセスは複雑でモデリングが難しいので、それぞれ多くの研究努力が注がれています。本グループでは、温室効果、日傘効果、雲形成、エアロゾル形成について研究することを通して、気候形成とその変動を理解する努力をしています。


図1:地球大気系の放射収支



汚れた対流圏

 人間活動によって対流圏は汚れた状態にあり、その中で様々な変化が起っています(図2)。工業活動や農業活動から大気汚染ガスやエアロゾルが発生します。これらは温室効果や日傘効果を作りだすことによって放射エネルギー収支を変化させます。その結果、このような直接気候影響によって気候変動が起こります。また、エアロゾルは雲凝結核として雲のライフサイクルを変えるために、雲量や雲の特性が変わります。このようなエアロゾルの間接気候影響によっても気候変動が起こります。

 エアロゾルと雲の気候影響については難しいことが多く本研究グループでは様々なモデルとデータ群を使って研究を進めています。

そのなかで放射、エアロゾル、雲微物理過程に関するモデルと観測解析システムは本グループがイニシアチブをとって開発しています。


図2:汚れた対流圏で起きている様々な現象


エアロゾルの研究

 図は人工衛星から得られた小粒子エアロゾルと大粒子エアロゾルの光学的厚さの全球分布と、硫酸塩エアロゾル、炭素性エアロゾル、土壌性エアロゾルの光学的厚さのモデル計算値を示しています。衛星観測によると大陸周辺の人間活動の激しい地域で小粒子が卓越しており、それに対応して、これらの地域で小粒子の硫酸塩エアロゾルと炭素性エアロゾルのモデル値が大きくなっていることが分かります。また、サハラ砂漠などの亜熱帯の乾燥地域で大粒子の土壌性エアロゾルが卓越している様子が衛星観測とモデルによって分かります。
 このように地球は様々なタイプのエアロゾルによって複雑に覆われていることがモデルと衛星観測で明らかになります。

図3:衛星から得られた小粒子と大粒子エアロゾルの光学的厚さの全球分布(上図、Higurashi et al., 2000による)と、硫酸塩エアロゾル、炭素性エアロゾル、土壌性エアロゾルの光学的厚さのモデル再現値(下図、Takemura et al., 2000による)



雲の研究

 さらにエアロゾルは雲の特性までも変えてしまいます。人間活動などで小粒子エアロゾルが増加すると、それらが雲凝結核となって低層雲の雲粒子数も増加します。そのために雲粒子の代表的なサイズも小さくなります。人工衛星によって観測された有効粒子半径の全球分布とモデル計算値を図4に示しますが、図によると大陸上とその周辺の小粒子エアロゾルが多い地域で雲の有効粒子半径が小さくなっていることが分かります。


図4:衛星から得られた水雲(雲頂温度が273度以上)の有効粒子半径の全球分布(Kawamoto et al., 2001より)と、SPRINTARSモデル計算値。(Suzuki et al., 2004)