全球雲解像モデルによる気候研究
気候システム研究センターでは、「全球雲解像モデル」の開発を進めています。全球雲解像モデルは、地球全体を5km以下の水平メッシュで覆う超高解像度の大気モデルです。従来の温暖化予測等に用いられている大気大循環モデルは、水平解像度が数10km以上にとどまらざるを得ず、大気大循環の駆動源として重要な熱帯の雲降水プロセスを解像することができませんでした。このような雲降水プロセスの不確定性さが、気候予測の最大の深く正の要因のひとつです。全球雲解像モデルは、雲降水プロセスを忠実に表現することで、この不確定性を取り除こうとするものです。
全球雲解像モデルは、正20面体を分割することで、球面上をほぼ一様な間隔で覆うメッシュを採用しています。フラーレンで知られる建築家 Buckminster Fuller は、このようなメッシュ構造を用いて、モントルオール万博(1967年)のドームを設計しました。気候システム研究センターは、海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センターとともに、正20面体格子にもとづく新しい大気モデル非静力学正20面体格子大気モデルNICAM(Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model) を開発しました。
水平メッシュ間隔3.5kmの全球雲解像モデルによって得られた雲画像。
全地球が海洋に覆われていると仮定した水惑星実験により計算された
大気上端での赤外放射量で、白い場所は高度が高い雲を表します。
左のようにメッシュ間隔100kmでは対流運動を解像できないが、右の
ようにメッシュ間隔5km以下で対流に伴うメソ循環を表現できるようになる。
モントリオールにあるバイオスフェア
Buckminster Fuller 設計(1967)
正20面体格子:左からもともとの正20面体、
1回分割、3回分割、5回分割して得られた格子配置。
全球雲解像モデルNICAMを地球シミュレータ上を用いて、3.5kmメッシュの全球雲解像実験を行った結果を示します。実験は、全地球が海洋で覆われていると仮定した「水惑星実験」という理想化したものですが、現実とよく似た熱帯のマルチスケールの積雲の構造がとらえられています。数1000kmスケールの東進するスーパークラウドクラスターの内部には、数100kmスケールのクラウドクラスターが西進しています。このクラウドクラスターの中には10km程度のスケールの積雲が1時間程度の寿命で発達衰弱を繰り返しています。
全球雲解像モデルによって、リアリスティックに雲降水システムを全球にわたって表現することが可能になりました。このモデルによって、従来の方法では予測することが難しかった台風の発生・発達や、夏季の天候、豪雨の頻度について、より信頼性の高い予測が得られることが期待されます。
3.5kmメッシュ全球雲解像モデルによってシミュレートされた赤道に沿った雲。
色は雲頂の高度を表す。赤道上の50W, 50E, 90E 付近に赤色で示した大きな
背の高い積雲の集団があり、その周囲に紫色の背の低い雲が列状に並んでいる
ようすがとらえられています。
左は水平スケール約6000kmのスパークラウドクラスターが東進する様子。
右は、その中で数100kmスケールのクラウドクラスターが西進している様子を
捉えている。3.5kmメッシュNICAMによる結果。
NICAM 7kmメッシュモデルの結果 熱帯降雨衛星TRMMによる観測結果
全球雲解像モデルによって観測とよく似たスーパークラウドクラスターの運動が
再現されました。図は、降水量の赤道における経度-時間変化図を示し、スーパー
クラウドクラスター
が1ヶ月かけて赤道に沿って東向きに地球を一周しています。
左は積雲7kmメッシュNICAMによって計算された結果、右は熱帯降雨衛星TRMM
によって得られた観測結果です。