過去の気候変動

地球の環境はいつでも今のように安定であったわけではありません。 かつては現在と全く異なる気候であったこともわかってきました。なぜ そのように違う環境になっていたのか,その原因やメカニズムを探ることは 現在の地球を知ることにつながります。私たちは気候モデルを用いて、現在と異なる環境が どのように実現されたのか研究を進めています。

  1. 地球史の気候変動:数千万〜億年スケール
    地質学的証拠(動植物化石、氷河の擦痕、化石中の同位体比変動など)から、過去20億年間に大規模な大陸氷床の存在した氷河時代と存在しなかった無氷河時代が繰り返したことが示されます。その要因としては 大気中二酸化炭素濃度や大陸配置の変化などが考えられますが、どのような仕組みで変動が起こるかは未だ解明されていません。CCSRでは数値実験を行うことでこの問題に取り組んでいます。

    図1:過去8億年間の氷河時代・無氷河時代の変遷と大陸移動
    3.4億年前1億年前

    (出典:Ronald C. Blakey;http://vishnu.glg.nau.edu/rcb/RCB.html より)

    図2:南極氷床がある場合と無い場合の年・東西平均気温差(大気大循環モデル)
    図2(小倉 1999)

  2. 氷期・間氷期サイクルの気候変動:数万年スケール
    図3 出典(CLIMAP (1981))
    気候の時代の分類に氷期/間氷期があります。現在は間氷期であり、氷床は南極大陸およびグリーンランドに存在します。約二万年前は最終氷期極大期と呼ばれ北米とユーラシア大陸にも広く氷床が広がっていました(右図3)。

    百万年前から現在にかけて、氷期と間氷期が約十万年の周期で交替したことが知られています。この気候変化の外因として、地球軌道要素の変化に伴う日射量の変化が考えられています。しかし気温や氷床の量などの変化は大変に大きく、日射量の変 化だけでは説明できません。大気、海洋など気候システム内の変動自体が増幅機能として重要となります。
    図4図5図6
    図4: 最終氷期極大期の500hPa大気循環場(矢印)と表面質量収支(色)(阿部)図5,6: 数値実験によって計算された南極氷床の高さ、流量分布および底面温度分布。(斎藤)
    図7 (阿部 1994): 約百万年前の氷期間氷期サイクルの開始が、継続的な日射量の数万年変動と第三紀から続く緩やかな寒冷化によって引き起こされたことが数値実験から示唆 されました。氷床は地殻と相互作用して固有の振動周期を持つような変動をすることがあり、 気候の外力が一定の周期、振幅で振動している場合でも外力の平均値の変化によって氷床は全く異なる状態へ遷移することがあります。
  3. 過去二万年の気候変動
    図8 (阿部 1999;Newton 11月号) 図9(阿部・千喜良 1999)
    最後の氷期は約2万年前にピークを迎え、それ以降、地球の気候は温暖化していきました(図8)。約9000年前から6000年前にかけては、北半球は今よりも温暖で,北アフリカからインド、東アジアにかけての地域が湿潤化していました。この原因はモデルの実験結果から、北半球の夏の日射が増加したことに伴う,モンスーン活動の活発化であったことがわかっています(図9)。この時期、とりわけ今のサハラ砂漠は極端に湿潤化し、その内部に大きく植生が広がっていました。そのメカニズムは、これまでよくわかっていませんでしたが、私たちは、モデル実験により、熱帯収束帯とサハラ付近の擾乱が接触することで、このようなことが実際に起こり得ることを示しました(図10)。
    図10(阿部・千喜良 1999)