大気変動の力学と化学
我々のグループでは、QBO・大気化学・梅雨前線・火星大気といったテーマについて、数値モデルやデータ解析の手法を用いて研究を進めています。
- QBO(準二年周期振動)
QBOとは、赤道下部成層圏(高度100〜10hPa)において約二年周期で西風と東風が交互に現れる現象です。下図(1a)は観測によって得られた、1992年11月から1999年2月における、赤道上空の経度平均された東西風の様子です。下部成層圏で西風(暖色系)と東風(寒色系)が約二年周期で交互に現れていることが分ります。
下図(1b)は気候センターの大気大循環モデルを用いて再現されたQBOの様子です。このような大循環モデルを用いたQBOの再現は、世界に先駆けて当センターのモデルによって成し遂げられ、QBO生成のメカニズム解明に大きく貢献しています。
図(1a) | 図(1b) |
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- 梅雨前線
- 地球温暖化と梅雨
最近夏が夏らしくなくなったとよく言われます。そこで、日本の夏がどのように変化してきたのか、日照時間のデータを調べてみました。図(3a)は1959〜68年の10年間と、1986〜95年の10年間で、8月上旬の1日当たりの日照時間がどのように変化したかを示した図です。東北地方南部から、北陸、山陰地方にかけて1日当り2時間もの減少が見られます。
次に梅雨前線の動きの変化に注目しましょう。図(3b)は1959〜68年の、図(3c)は1986〜95年の梅雨前線の北上の様子です。昔は7月上旬迄に東北地方北部まで北上していますが、最近では8月になっても東北地方南部に停滞しています。夏の天気が悪くなったのは、このように梅雨前線が北上しにくくなったのが原因のようです。さらに気圧の変化を調べたところ、北日本で1〜1.5hPaも高くなっていることが分りました。オホーツク海高気圧が強くなって梅雨前線の北上を妨げているようです。
北極地方は地球温暖化によって特に温度が上昇しやすいと言われています。そこで、このような温度の上昇が日本付近の気圧配置にどんな影響を与えるか、簡単な数値実験で調べてみました。図(3d)は温度変化を与えて計算した結果、生じた気圧配置の変化です。図(3d)を見ると、確かにオホーツク海や北日本で気圧が高くなっています。つまり、オホーツク海高気圧が強くなった原因は、地球温暖化である可能性が高いと言えそうです。
- 大循環モデルによる梅雨前線の再現
今まで大気大循環モデルでうまく梅雨前線を再現できたという報告はなく、ほとんどのモデルでそれを再現させることに失敗しています。しかしながら梅雨前線は日本の降水に大きな役割をしており、大気大循環モデルでそれを再現させることが望まれます。梅雨前線の特徴的な水平スケールが数100kmであるということをふまえて、T106という約120kmの水平分解能を持つ大気大循環モデルを用いて再現することを試みました。
下の図(3e)は6月の1ヶ月平均の降水分布です。日本南部に帯状に集中して伸びた降水帯が見られます。ここには示しませんが、日々の降水分布を見ても、この位置に降水が継続的に起こっています。より詳しい解析を行うと、前線帯で下層ジェット、比湿、相当温位の強い水平勾配、湿潤中立成層という梅雨前線に特徴的な数100kmの現象がモデルの中で再現されており、定性的に梅雨前線を再現できました。
図3e
- 圏界面中間規模波動
図(4)は1995年4月に滋賀県信楽町にある京都大学MUレーダー(北緯34.9°,東経136.1°)で測った南北風(赤:南風, 青:北風)の時間高度断面図です。温帯低気圧の通過にともなう南風から北風への風向変化(12, 19, 23日)に加え、対流圏界面付近(高度12km)に周期が20〜30時間の風速変動が時折(13〜18日、21〜22日、23〜24日)に現われています。この風速変動は、対流圏界面に捕捉された東西波長が約2000km程度の東進波動によるものです。
成層圏から対流圏への物質輸送は、対流圏界面付近の波動擾乱によって担われています。この波動が果たす役割についても、今後研究を進めていく予定です。
図4
- 火星大気モデル
我々のグループでは、地球用に作られた大循環モデルを火星用に変更して、火星大気の研究も行っています。火星の大気は地球に比べて非常に薄く(地球の1/100程度)、主成分が二酸化炭素で出来ています。また、火星では大小様々なスケールの砂嵐が吹き荒れ、大量の砂塵(ダスト)を大気中に供給しています。火星大気の運動・温度構造はこのダストが太陽放射を吸収・散乱する事によって大きく影響を受けます。しかしながら、ダストの供給過程である砂嵐の発生メカニズムを始めとして、よく分っていない事も多く、今後の研究の進展が待たれています。
下図(5a),(5b)はそれぞれ、我々のモデルを用いて計算された、火星の春分近くにおける経度平均した東西風と気温の図です。今後はダストの巻き上げ過程や極冠の生成過程をモデルに組み入れ、より詳しく火星気象を見ていくことが予定されています。
図(5a) | 図(5b) |
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