大気変動の力学と化学
我々のグループでは、QBO・大気化学・梅雨前線・火星大気といったテーマについて、数値モデルやデータ解析の手法を用いて研究を進めています。
大気化学モデル
大気中には様々な化学物質や微粒子(エアロゾル)が存在しています。それらの間には図(2a)のように複雑な相互関係が存在し、大気中での存在量を決定しています。そのような物質の中の幾つかは人間活動に伴って大気中に大量に排出され、地球環境に甚大な影響を及ぼすと考えられています。我々のグループでは、そのような化学物質の分布・変動を大循環モデルを用いて研究しています。
(2a) 大気中の様々な化学過程 | 図(2b) |
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- 対流圏化学
対流圏での化学過程は、温室効果気体の動態およびエアロゾルや酸性物質の生成に大きく関与しています。そのなかでもオゾンは対流圏の化学過程において中心的な役割を演じます。更にオゾン自らが主要な温室効果気体の一つであるため、対流圏での放射場・化学場双方にとって重要な物質と考えられています。また近年では人間活動に伴う対流圏オゾンの増加が懸念されています。そこで今後のオゾン自身及びその効果の振舞を検討するべく、オゾンと各関連気体の分布・収支・変動を全球モデルを用いて考察しています。図(2b)はモデルで再現された対流圏オゾンの全球分布で、オゾンの光化学的な生成や特徴的な子午面分布の様子を見ることができます。
- オゾンホール
このような状況の中、我々のグループでは、今後のオゾンホールの推移を予測する事を目標として、図(2a)のようなオゾンホールの発生機構を組み込んだ大循環モデルを開発しています。図(2c)はそのモデルを用いて再現された10月の南極上空の全オゾン量の分布です。極域の春先に下部成層圏のオゾンの濃度が急減する現象を「オゾンホール」と言います。この現象は南極大陸の上空で発見され、年々拡大しています。90年代に入るとそれまでこのような現象の報告されていなかった北極域の上空でもオゾン濃度の減少が見られるようになってきています。これには、地球温暖化等の気候変動が大きく影響していると考えられており、今後のオゾンホールの動向に大きな注目が集まっています。
- 硫酸エアロゾル
硫酸エアロゾルは、工場の排気や火山ガス等に含まれる二酸化硫黄等の化学物質が成層圏で硫酸に化学変化し、水分を取り込むことによって作られます。硫酸エアロゾルが存在すると、対流圏から熱が逃げにくくなり、また、逆に太陽からの入射光は反射されて地表まで届きにくくなります。それに加えて大気中の化学物質の生成・消滅のバランスを変化させるので、成層圏の温度分布を決定するオゾンの分布にも影響を与えることがあります(図(2d))。
最近では1991年にフィリピンのピナツボ火山の噴火によって成層圏にまで大量の二酸化硫黄が流入し、その影響は数年にわたって全球規模で現れました。我々のグループでは気候センターの大循環モデルを用いてその影響を評価しようと試みています。図(2e)は下部成層圏での温度を時系列で表したものです。赤道近辺では噴火後1年以上の期間にわたって最大で2度近く温度が上昇し、高緯度地方では冬に10度近く冷たくなっていることが分ります。
- 太陽活動11年周期変動と成層圏オゾン変化
右図(2f)は太陽活動11年周期変動の太陽放射最大と最小を想定して、それぞれ20年づつAGCMを走らせた結果です。冬季は気温等のdeviationが大きいため、夏季の結果を解析しました。
結果(図(2g))からも分かるように、比較的、短波長の影響を受けやすい中部から、上部成層圏で太陽活動の影響が強く見られました。気温、オゾンがそれぞれのpeakに達する高度で、太陽放射最大と最小のときの差がつよくみられていることが、とても興味深い結果となっています。
図(2f) | 図(2g) |
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