質問票 へのQandA
第二部「パネルディスカッション」で取り上げてほしいこと、講演者への質問などについて、回答を、今須先生、羽角先生、丸山先生からいただきました。
(家庭、ビル部門とCO2)
・温暖化が叫ばれるようになってから、CO2は減少しているのか?
1990年以降、日本全体のCO2排出量は増加していますが、最近では頭打ちの傾向が見られます。排出量が増加した部門は、家庭部門、ビル部門、輸送部門(自家用車等)で、いずれも市民生活に強く結びついており、削減するためには、人々の認識と行動の変革が重要です。CO2削減方法には、残念ながら「銀の弾丸」はありません。様々な技術や方法等を組み合わせ(ポートフォリオと呼ばれています)、対応する必要があります。一方、世界全体では、これまでの予測をすべて上回るスピードでCO2排出量が増加しているのが心配です。最近の燃料価格の高騰がこれにどのような影響を与えるか、世界の景気後退も困りますので、両面から注目していきたいと思います。(丸山先生)
(人口問題)
・どうして人口は減るのか?
先日のテレビ報道で、韓国は日本を下回る特殊出生率(1.08)であることを報道していました。理由は、共働きによる時間減少と金銭的に高い教育費など様々なようです。しかし、韓国のケースでは、南北統一なども視野に入れておく必要もありそうです。また、英国では、2050年には人口が予想以上に増加し、30%程度が移民になるとも報道されています。日本が今後どのような人口政策を選択するのか、それによって社会・経済やエネルギー・環境問題はどうなるのか、といった複合的な視点からの検討が重要になるでしょう。(丸山先生)
(再生可能エネルギーと温暖化防止)
・省エネ製品の生産や代賛エネルギーの開発によって、新たなプラントや資材が必要になると思うが、そのために新たにCO2が排出される恐れはないか?
日本では、エネルギー資源の大部分を海外から輸入しているという現実を忘れないことが重要です。今後は、中国等の需要増加も予想されることから、エネルギーセキュリティの確保には特に注力する必要があります。欧米や中国、豪州、カナダ等は資源大国という側面があり、最近の燃料価格の高騰に対しても強い体力があります。日本にとって、自然エネルギーやバイオマスの利用はエネルギーセキュリティ上有効ですが、無駄をしないという点から、EPRが1以上になるかどうかの検討も重要です。EPRは、太陽パネル等の製造等にかかる投入エネルギー(E)と得られるエネルギー(P)の比、EPR(Energy Profit Ratio) = P/Eとして定義されます。バイオマスではEPR>1以上の条件に加えて、食料や環境保全とのトレードオフの関係にも注意する必要があります。これらを十分考慮して、バランス良く利用することが重要で、ここでも「銀の弾丸」はないというのが現状です。(丸山先生)
(エネルギー供給とCO2削減)
・CO2を地中深くや深海に溶かしこむことで、また新たに問題を生むということはないのか?
化石燃料の約40%程度を消費する電力分野から見ると、@原子力発電、A再生可能エネルギー、B石炭等の化石燃料+CCS(CO2回収・貯留)、だけで発電供給システムを構成すれば、ゼロ排出も夢ではありません。しかし、残りの60%は、産業、家庭、ビル、輸送部門が消費しており、この部門の排出量の削減が大きな課題になってきています。将来、電気と水素だけを供給するエネルギーインフラを構築し、原子力発電と夜間電力を蓄電して使用する電気自動車が普及することが理想ですが、いきなりそこにジャンプすることはできません。情報技術(IT、携帯電話等)を活用し、電灯などを自動的に消灯するスマートハウス等の工夫により、省エネを徹底的に進め、無駄を省くことがまず重要でしょう。そうした努力をしてもさらに削減が必要な場合、最後の切り札として、化石燃料+CCS(CO2回収・貯留)が考えられます。日本では、将来のエネルギー需要が横ばいから低下するようであれば、CCSに頼らなくても済む可能性があります。(丸山先生)
(地中のことは私は知りませんが…)深海に溶かすことについては、そもそも溶かすことができるのならば、その分については問題にならないでしょう。というのは、深海は流れも拡散も小さいので、特定の限られた領域にCO2を溶かしていてはすぐに限界がきます。これまでに人間が排出したCO2は海全体が持っているCO2の数パーセントにもなりませんが、広大な深海にまんべんなく溶かすことは事実上不可能です。仮に(無理な話ですが)水平1000キロメートル四方、深さ1000メートルの範囲にバラまいたとしても、それは全海水の0.1パーセントにもなりません。大気中CO2濃度を下げたと言えるほどのCO2をそこに溶かそうとすれば、その範囲の海水のCO2濃度を何百倍にもしなければなりませんが、そんなに溶けるわけありません。なお、仮に大量のCO2を深海に溶かすことができた場合でも、そのCO2が増えた水は数百年・数千年という時間のうちにはやがて海面付近まで上がって、その時点で大量に大気にCO2を放出することになります。ただし、そうした長い時間の中では、他の要因によって気候・海洋循環あるいは生態系の大規模な変化が起こることも考えられますので、その影響までを含めるともはや何とも言えなくなります。(羽角先生)
深海に溶かし込む場合の話については、類似の質問への羽角先生からの回答をご参考にしてください。地中深くに送り込む方法は、現在、油田に戻す方法が有力かと思います。これは、もともと化石燃料を取り出したところに戻すわけですから、その意味では合理的な方法です。また、その圧力により、取り出される原油量を増やすこともできるという試算もあります。ただ、実際には高圧にして地中に戻すための技術やエネルギー効率の問題があり、簡単には実現しないようです。(今須先生)
(面白いCO2削減技術)
・CO2が減少しても温暖化が止まらなかった場合、次の対策は?
宇宙発電などの夢の技術を追求するのは大事です。同時に、人類の生存にはエネルギーだけでなく食料やレアメタル等の貴重な資源も不可欠です。したがって、まずは無駄を省くこと、エネルギー・資源の循環型社会を目指して、持続可能な社会を構築する必要があります。なかなか難しいことではありますが。(丸山先生)
・バイオ燃料の可能性は、温暖化対策の面からはどのように評価されているのか?
・バイオ燃料を生産する時点でCO2が放出されているのでは?
はい、確かに放出されます。これは、原料となる穀物等の生産とエタノールなどの燃料の製造工程において化石燃料を起源とするエネルギーを使うためです。しかし、これら製造から流通、消費までに必要となるエネルギー等を総合的に評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)評価の結果では、ガソリン等に比べて投入エネルギーが少ないと評価されています。さらにサトウキビやビールの絞りカスなどを原料として用いるような場合には、生産過程でのエネルギー消費はかなり少なくなります。ただし、バイオ燃料用穀物の生産のために森林を伐採して畑にするような場合にはCO2放出量の問題だけではなく、環境全体を考える上でも非常に問題があります。(今須先生)
・米国などでは宇宙に大きな鏡を打ち上げ、太陽入射をコントロールすることを検討していると聞いたことがあるが、このような技術は温暖化解決の選択肢になりうるのか?
具体的な内容を知らないのですが、CO2による赤外線の遮断効果と同じ量を、日射を遮る効果で得ようとすると、日射の約0.1%を遮断する必要があります。そのような遮蔽物を宇宙に作れるのかという問題もありますが、あまりに対処療法的な方法で、健全な地球の“体質改善”とは逆行するような話ではないでしょうか?(今須先生)
・CO2を固めるなどして宇宙空間に放り出すという案については、どう考えられるか?
CO2を宇宙空間に放り出すために必要なエネルギーの方が大きいため意味がないように思われます。(今須先生)
・排出量を低下するのではなく大気中のCO2を積極的に回収したり減少させようとする試みは検討されているのか?あるいは、気温を低下させようとする研究はされているのか?
一度大気中に放出されたCO2を回収するためのエネルギーを考えると、良い対策とは言えません。現在、地中・海中投棄を検討されてるCO2は、火力発電所などから大規模に出るものを効率よく回収したものを対象として考えられています。エネルギーを使わずに地球規模で気温を低下させることも不可能です。(今須先生)
(京都議定書等の政策)
・CO2のみでなく、サステナブルという視点では化石燃料の代賛に関しても重要だと思うが、その点についてはどのように考えるか?
温暖化を引き起こす温室効果ガスはCO2が主体です。しかし、メタンやN2O等の他のガスも温暖化を引き起こし、しかもメタンを除き、大気中濃度は増加傾向にあります。京都メカニズムのひとつであるCDM(Clean Development Mechanism)に関しては、日本の電力会社がチリ等の発展途上国の畜産事業からのメタンを回収し、発電に利用する事業を実施しており、効果的な方法と思います。一方、貧困が原因の森林破壊によるCO2発生量も依然として減少していません。これらは、食料生産や開発途上国の貧困といった問題から生じていますが、京都議定書以降の先進国・途上国の利害対立(南北問題)から、その対策がほとんど進んでいないのが懸念されます。(丸山先生)
(温暖化のメリットとディメリット)
・温暖化によるメリットはないのか?温暖化は、何が問題なのか?
温暖化がほほほど進んで、暖かくなるのは私も歓迎です。一方、過去2万1千年前は最終氷期極大期と呼ばれており、現状よりも8℃程度気温が低かった。そこから、約1万年かけて現在の温暖な時代になってきています。気温上昇では、1万年で約8℃程度でした。一方、人間が引き起こしている温暖化は100年で約2℃程度であり、1万年では200℃にもなる上昇スピードです。このスピードで生態系が順応できるのかどうか不明です。この問題を避けるには、やはり、変化スピードを落とす必要があります。(丸山先生)
(CO2・気候変化の測定・観測)
・大気中のCO2が2倍になっても、海中に吸収されたら2%増程度であるならば、大気中のCO2ばかりが増えてしまうのはなぜか?
海によるCO2吸収は海面でしか起こりません。海がどれだけCO2を吸収するかは、海上空気と海面付近海水のCO2濃度(正確には分圧)差によります。海上空気のCO2濃度が上がると海面付近の海水はその余分なCO2を吸収していきますが、吸収したCO2を海の深層に送り込むことができなければ、海面付近のCO2濃度はすぐに上昇し、大した量のCO2を吸収することができません。海面付近で吸収されたCO2が海の深層に送り込まれるのは海の流れや生物活動によります。とくに流れによってCO2が深層へ送り込まれるのには長い時間が必要です。これまでの人間活動によるCO2放出が1000年という長い時間をかけて起こったのであれば、大気中のCO2濃度はほとんど変わることなく、深層までの海のCO2濃度が若干上昇するという結果になったでしょう。現在起こっている大気中CO2濃度の上昇は、海が応答しきれないスピードで人間が余分なCO2を放出している結果とも言えます。(羽角先生)
・海が酸性化することで、漁獲量の減少など、何か影響はあるのか?CO2溶存濃度の上昇は、食物連鎖破綻の始まりにならないのか?
この問題は実に重要ですが、理解・影響予測が十分に及んでいません。酸性化によって円石藻など炭酸カルシウムの殻をまとうプランクトンが絶滅してしまうおそれがあることは、講演の中でも述べたとおりです。そしてまた、それらの生物が海洋生態系における主要な生産者(空中・水中のCO2を生物体に固定し、生態系の食物連鎖の中で一番最初に「食物」を作り出す生物)に数えられることもまた、講演の中で述べたとおりです。その絶滅によって漁獲量が減少することは当然危ぶまれますが、その程度、あるいは殻をつくらない生物がどの程度取って代わることができるかなどについては、十分な理解が得られていないのが現状です。(羽角先生)
・大気中のCO2濃度は、どのようにして測定しているのですか?地球上の場所や温度によって様々に変化していると思うのですが。
大気中のCO2を直接測定する方法は大きく分けて2通り有ります。ガスクロマトグラフィーと非分散赤外吸収装置(NDIR)を用いる方法です。いずれも水蒸気を取り除いてフラスコ(金属製)等にサンプリングしてきた空気を実験室に持ち帰り分析ができます。ガスクロマトグラフィーの場合にはやや精度が落ちると言われていますが、少ない資料で分析できるため、南極の氷の中の気泡(過去の大気)の分析なども行えます。また、NDIRは赤外線の吸収を利用するため、現場での連続観測も可能であり、最近では民間航空機に搭載して自動計測するプロジェクトも進められています。いずれの測定(サンプリング)においても、標準となるガスにより校正してデータ解析が行われるため、サンプリング時の気温等の影響は受けません。
これとは別に、最近では太陽を光源とした地上からのリモートセンシング手法や、人工衛星からの測定が試みられるようになってきましたが、この場合には気温や水蒸気ばかりではなく、その他の気体の影響も受けるため注意が必要です。一般的には、気温や水蒸気などの情報を別途取得し、それらの情報と併せてCO2濃度の解析が行われます。(今須先生)
・地球の平均気温はどのように観測しているのか?観測地点の場所、状態でかたよりは出ないのか?
地上気温(地面から2mの高さでの気温)は世界中の気象官署で測っています。また、船舶や航空機からの通報などもあります。気象予報業務には人工衛星から測定された上空の気温データも用いられます。これらのうち地上気温の観測は、場所によっては100年以上継続されているところもあります。IPCCの報告書などにも、この100年間で世界の平均気温が約0.5度上昇したと記されています。この数値はこれらの観測データを詳細に解析して求めたものです。この時問題になるのが、測定機器や校正手法が途中で変わることと、観測点の都市化の問題です。世界全体が一様に都市化し、観測点もその代表的な点ならよいのですが、通常、観測拠点のある場所は都市からさほど離れていない場所が多く、都市化が進むことで、観測点の近傍のみで気温が上昇し、世界全体の平均気温を求めるときの代表性がなくなることが問題となります。(今須先生)
・二酸化炭素を宇宙から測定する際に使用するセンサーとは、どのようなセンサーを使用するのか?
現在解析、あるいは計画されているCO2濃度の測定が可能な衛星搭載センサーは、主に1.6μm帯(短波長赤外)と15μm+4.3μm(熱赤外)の波長帯に感度のある赤外分光装置が用いられています。前者は太陽光が大気中に入射し、地面で反射されて衛星に届く間のCO2による光の吸収量からCO2濃度を推定します。一方、後者の熱赤外線は、地面や大気から放出される赤外線が衛星に届く間に吸収・放出される量を解析し、CO2の量を求めます。(今須先生)
・なぜ、衛星を使用すると炭素収支の測定誤差を減らすことができるのか?
“トップダウン推定法”という手法によるCO2の発生・吸収の強度の推定、つまり、炭素収支の推定は、観測された大気中濃度のデータをうまく再現する収支値を求めるというような原理に基づいて行われます。そのため、精度の高い観測データが、世界のあらゆる場所で測定されていることがよりよい推定結果を生みます。しかし、アマゾンやアフリカ、海上などではそのような観測データが極端に少ないのが現状で、そのことが原因で、炭素収支の推定誤差が大きくなっています。人工衛星による観測では、これら観測データの不足地域上空でのデータが得られるため、炭素収支計算の精度が向上するものと期待されています。(今須先生)
(温暖化の予測)
・南極よりもグリーンランドの方が海面上昇に影響が大きいのか?
南極はグリーンランドよりもずっと大きな大陸であり、その中央部は海(すなわち水源)から遠く離れているため、グリーンランドに比べると降水(降雪)量がかなり少なくなっています。温暖化の結果として、南極の氷床や雪が溶ける量はもちろん増えます。その一方で、当面の温暖化の中では、南極周囲での海からの蒸発量の増加や大気循環の強化に伴って、南極に降る雪の量はそれ以上に増える可能性があります。コンピュータを用いた気候の将来予測シミュレーションでは、これから数十年ないし百年程度の間であれば、南極では降雪量増加の方が上回るという結果を出すものが多くあります。ただし、その場合でも、さらに温暖化が続けばいずれは融解量増加の方が上回ってしまい、そうなってしまえば南極の影響の方がグリーンランドよりはるかに大きくなります。(羽角先生)
・海水の表面温度の上昇により、同じ太陽エネルギーを受けても蒸発量は以前より増えているのではないか?それに比例して、降水量も地球全体では増えているのではないか?
その通りです。ただし、それはあくまで地球全体で見た場合であり、蒸発・降水がともに一様に増えるわけではありません。場所によっては降水量が極端に減少すること、あるいは増加しすぎることによって、人の居住・農耕あるいは特定の生物の生息に適さない環境になることが問題です。(羽角先生)
・「温室効果の原理」の図の中で、温室効果気体として水蒸気がなかったと思うが、水蒸気による影響はないのか?
・H2Oの温室効果が取り上げられていないが、これを計算に入れるとどうなるのか?
現在の気候モデルではCO2が原因となる温暖化に伴うH2Oの変化も(自動的に)モデル中に取り入れられています。これには、海水温の上昇で水の蒸発が増えて温室効果が増す一方で、雲が増えて日射を遮るなど、さまざまな物理プロセスが複雑に関係してきます。そのため、モデル間のバラツキ、特に雲の扱い方によって温暖化予測結果に幅がでてきます。一方、CO2の場合には対流圏においては地球を暖める単調な効果のみなので、どのようなモデルにおいてもその効果は類似しており、温暖化への影響は確実に認められるというのが研究者間での共通認識です。(今須先生)
・温暖化には太陽活動が原因のひとつという説があるが、どう考えるか?
IPCCの報告書などに掲載されている気候モデルによる過去100年の気候再現実験の計算では、その間+2%程度と言われる太陽活動の変動分も考慮されています。太陽活動が活発になった分を考慮しないと、過去の気温変化の形を正確に再現できませんが、それだけでは最近の気温上昇は説明できず、やはり温室効果気体の増加が温暖化の原因であると考えられています。(今須先生)
(氷期氷期/間氷期サイクル)
・長い地球の歴史の中で、人間がいなかった時代にも温暖な時と氷河期のような寒冷な時期があったとされるが、この長大な時間軸で考えた時、現状をどのようにとらえれば良いのか?
中生代の温暖な気候や氷河期の寒冷な気候など、地球の長い歴史における大規模な気候変動は、基本的に大気中CO2濃度の増減と連動していたと考えられています。現在および数十年後における大気中CO2濃度は、中生代には及ばないものです。しかし、大気中CO2濃度の変化速度が、過去に例を見ないものであることに注目する必要があります。動植物にはそれぞれの種類ごとに生存に好ましい気候条件というものがあります。ゆっくりとした気候変化の中でならば、ある個別の種の立場から見た場合には好ましい気候条件のもとに移動するということが、ある場所を固定して見た場合にはそこで繁栄する種がより気候条件に適合したものによって取って代わられるということが起こり得ます。あるいは生物が変化する気候に適応するように進化することすら考えられます。それでも、過去の気候変化の中で、適応できない生物の大量絶滅は起こりました。まして現在進行しているような急激な気候変化の中では、様々な生物および生態系に適応する余裕がないことが危惧されます。(羽角先生)
・今の地球温暖化は間氷期ではないのか?
現在を含め、温暖化する前の気候がそもそも間氷期に相当します。(羽角先生)
・IPCC4次報告書にみられる問題点はありますか?また、そこから受けた影響というものはありますか?
気候変化を引き起こす原因は、四つあります。一つは太陽エネルギーの変化、言い直すと地球軌道の変化です。二つ目は、火山爆発です。たとえば江戸時代、富士山の噴火が冷夏と飢饉を引き起こしたことがよく知られています。三つ目は、CO2等の人為的な温室効果ガスの変化で、通常はこれが地球温暖化として問題になります。四つ目は、森林伐採や砂漠化などで地球の表面が変化することによって気候は変わります。IPCCの第4次評価報告書AR4によると、過去の40万年程度の氷期/間氷期サイクルは地球軌道の変化が原因であることがはっきりしてきました。CO2濃度は、180ppm〜280ppm程度であり、規則的に変化していました。それよりでは、現在よりも5〜6倍もCO2濃度が高い時代がありました(羽角先生参考)。しかし、過去40万年の氷期、間氷期サイクルは、地球の気道が楕円軌道であって、かつ2万年周期の歳差運動(すりこぎ運動)のある組み合わせが原因だということがわかってきました。現在の地球軌道は円運動で、楕円軌道ではありません。このため、約2万年周期の歳差運動との組み合わせでは氷河期の条件が現れず、今後3万年にわたって氷河期は来ないと予測されています。これに人為的な温室効果ガスの影響が加わるので、温暖化は相当長期間、継続することになります。つまり、温暖化が氷河期で相殺されるということに期待はもてないようです。(丸山先生)
(海とCO2吸収)
・海洋の何がCO2を吸収するのか?植物プランクトンだけが吸収しているのか、それとも何か他に吸収する要素があるのか?
植物プランクトン(およびその他の海中植物)はもちろんCO2を吸収しますが、そもそも水そのものがCO2を吸収する溶媒です。(羽角先生)
・どうして海にはCO2を吸っている場所と排出している場所が分かれているのですか?
もし、海の温度がどこでも同じで、海中に生物が存在せず、さらに大気中CO2濃度が一定であるならば、海はどこでもCO2を吸収も放出もしなくなり、海中のCO2濃度はどこでも同じになります。海水の温度によるCO2の溶けやすさの違い、生物活動によるCO2の吸収・放出、そして海の流れに伴うCO2の輸送によって、海のCO2濃度は場所によって大きく異なり、そのために吸収する場所と放出する場所が分かれます。(羽角先生)
・海洋のCO2観測の技術は向上するとは考えられないのか?
海水中は電磁波が伝わらない(すぐに吸収されてしまう)ので、大気中のように人工衛星を用いて「面的に」観測することはできません。しかし、海洋なりの革新的な観測手法というものが開発され続けています。その代表がArgo(アルゴ)と呼ばれる観測システムです。Argoとは海中の決められた深さを海流にのって流される「浮き」で、一定時間ごとに浮上し、その途中の水温・塩分を測り、海面に出たときに人工衛星に観測データと存在位置の情報を送り、再び決められた深さに戻ります。現在、海の中にはこのArgoが数千個存在しており、海流と温度・塩分を面的に観測しています。このArgoにCO2計測装置を搭載したものが実用化されつつあります。(羽角先生)
・中島先生は海のCO2吸収量は1/3だとおっしゃっていましたが、羽角先生は半分だとおっしゃっていました。どちらが正しいのですか?
中島が紹介した数字は、人間活動が「現在」放出しているCO2のうち海が吸収している分です。一方、羽角が紹介したのは、「産業革命以降これまで」に人間活動によって放出されたCO2のうち、海が吸収した分が半分ということです。つまり、海はだんだんCO2を吸収しなくなってきているのです。(羽角先生)
(ゼロ排出世界)
・温暖化進行(IPCC2007)に適応した社会・経済体制で具体的なビジョンがあれば教えてほしい
化石燃料4000Gt-Cを、2100年を中心として正規分布状に使い切った場合のシミュレーションを紹介しました。正確には2300年ころに化石燃料の消費がゼロになります。大気中CO2濃度は、CO2を排出続ける限り増加(つまり2300年ころまで)しますが、地球の吸収量が排出量を上回るようになると、濃度が逆に減少しはじめ、結果として2200年ころにピークが現れます。ちょっと難しいですが、体重増加と食事量の関係を想像すると、わかりやすいと思います。食べ続ける量が減ってきても、基礎代謝量を上回る量であれば体重は増加を続けます。 ゼロ排出社会は、100年以上の長期的な目標であり、努力目標です。かりに、ゼロ排出を世界中で達成できなければ、温暖化が長期間続くことになり、それが不都合であれば(現状では温暖化を歓迎する寒い国もあります)、世界各国も考え直すかもしれません。現在のCOPなどの各国の利害関係の衝突を見ますと、楽観できそうもありませんが、ゼロ排出にすればなんとかなることも科学的な知見です。したがって、今後の不可避的な温暖化にいかにうまく適応するか、という点が重要になります。しかし、モロッコ等の地中海沿岸諸国の旱魃、島嶼国の海面上昇等への適応は難しく、環境補償問題や環境難民などの問題に発展する可能性もあり、日本だけの問題として適応を捉えるのも一面的な見方かもしれません。大変厄介な問題です(丸山先生)。
(メタン・炭素循環)
・メタンガスはCO2の21倍の温暖化効果があるそうだが、”メタンガスを発生させない努力・措置”をもっと評価すべきではないか? 排出権の発想、あるいは京都議定書の発想では、評価されないのか?
・CO2ではなく、炭素循環ではないのか?
はい、そのとおりです。CO2だけでなく、メタンを含む炭素循環、さらに、フロン類も含んだ温室効果気体全体の削減が必要です。人為起源のメタンの発生は主に家畜生産(牛のゲップなどに含まれる)や水田からの発生です。また、工業活動に伴う発生や天然ガスのパイプラインからの洩れも問題となります。いずれについてもメタンガスを発生させないための技術的な研究はかなり以前から進められていますが、なかなか決定的な方法が得られていないのが現状です。さらに、地球温暖化に伴いシベリアなどの永久凍土が溶け、地中に埋まっていたメタンが大気中に放出されるという問題が指摘されています。まだ定量的な予測精度が十分ではありませんが、温暖化をさらに加速するプロセス(正のフィードバック)ですので、今後、かなり重要となってくる課題です。(今須先生)
・CO2を地球上から減らすという話が出たが、CO2がなくなりすぎても大丈夫なのか?地球上には、どのくらいのCO2が必要なのか?
産業革命以前の280ppm(現在380ppm程度)に戻せれば、少なくとも人為起源の影響はないと言えます。ただし、植生分布の変化や土地利用変化などの影響は別途残ります。(今須先生)
・森林以外に田畑のCO2吸収が話題になっていますが、こうした一年生の草類のCO2吸収はどの程度影響を持つのか?また森林も成熟するとCO2吸収能力が下がると聞くがそのあたりはどうなのか?
一年生の草類は、CO2を吸収して成長し、枯れて分解されるとまたCO2に戻ります。ただし、根などは水田の土壌中など嫌気性の環境ではメタンに変わるため、その分、CO2ではなくメタンとして炭素が放出されます。一般にメタンはCO2の20倍以上の温室効果作用があると言われていますので、同じ放出ならCO2として大気中に戻された方が温暖化という視点からは影響が少ないと言えます。
完全に成熟した森林の場合も、トータルのCO2吸収量はほぼゼロに近くなると考えられていますが、成長途中の森林はCO2を吸収します。最近、熱帯林の破壊により大量のCO2が放出されていると言われていますが、その多くの部分は中高緯度の成長途中の森林が吸収していると言われています。(今須先生)
・どうして昼にCO2を吸ってO2を排出し、夜にO2をすってCO2を排出するのか?またそれは本当ですか?
植物は常に呼吸しているため、O2を吸ってCO2を放出しています。しかし、昼間は光合成によりCO2を吸収してO2を排出する量の方が上回っているために、全体で見るとCO2を吸収してO2を排出しているわけです。夜は光が無く光合成ができないので、呼吸による作用のみが現れるわけです。(今須先生)
・アフリカ大陸でCO2発生が大きいというシュミレーション結果があったが、アフリカ大陸でのCO2の発生源は何か?
アフリカ中南部における大量のCO2発生は主にバイオマスバーニングによります。(今須先生)