平成17年度共同研究報告書の発行にあたって
気候システム研究センター(CCSR)の平成17年度共同研究に関する報告を取りまとめましたので、ご覧いただければ幸いです。この場を借りて、直接、間接に共同研究にご協力をいただいた関係者にお礼を申し上げます。
さて、気候形成と変化メカニズムの研究は、温暖化現象や人為起源ストレスに起因する環境変化を理解するための科学的基盤を提供する重要な研究であるとともに、社会的にも大きな関心を集めている研究テーマです。しかし、その一方で、モデリング研究と計算機の発達に伴って、モデルの複雑化と精緻化が起こっており、モデル開発には多くの研究者、技術者、計算機資源が必要になっています。このような状況に対処するために、大学共同利用研究施設でもあるCCSRでは、内部における研究・教育活動の強化とともに、外部との連携強化に務めております。この意味において、共同利用研究がますます重要になっているといえます。また平成17年度から、東京大学領域創成プロジェクトの一環である「気候・環境問題に関わる高度複合系モデリングの基盤整備に関するプロジェクト」や、企業連携の「気候環境アプリケーション創成コンソーシアム」もスタートさせ、様々な次元において研究連携を活性化する努力をしております。CCSRに新設した領域創成プロジェクトオフィスでは、モデルの利用促進、プログラム相談、様々なアプリケーションの共同創出を行っておりますので、どうぞご利用ください。
モデルの発達の方向についても、様々な研究の進展に伴って、新しい方向性が生まれていると思います。地球システムモデリングに象徴される大循環モデルによる総合的な地球気候のモデリングは、現在、佳境に入ったと言えます。また、非静力学モデルによるメソスケール現象のモデリングに関しても活発な研究が行われており、実用的ないくつかのモデルが現れつつあります。NICAMモデルによる全球高分解能モデリングに関してもSPRINTARSエアロゾル・放射モデルとの結合が完成しつつあり、大規模な数値実験が準備されています。今春にはNASAのCLOUDSAT/CALIPSO衛星によって雲レーダーとライダーが初めて宇宙空間に投入され、このような新しいデータとモデルによって雲システムの解析が大きく進むと期待されます。環境省のGOSAT衛星計画においても、温室効果ガスやエアロゾルの同化問題が真剣に検討されています。これらの例が示すように、データとモデル結果を同化する研究が気候研究の重要課題として位置づけられつつあると思います。大気場と海洋場の精度の高い同化解析が、昨冬の異常積雪や2004年の台風の異常襲来といった極端現象の予測等の短期気候予測研究にとって不可欠であることは言うまでもありません。
大学法人化も一段落しましたが、表面下では大きな潮流の変化があると感じております。各研究機関・部局が自由裁量で自分のやるべきことをある程度決められる時代の扉が開かれた今、CCSRでは、次世代の育成にも有効な最先端の気候モデリングに関する研究を創造的に推進してゆく所存ですので、よろしくご支援をお願いします。
平成18年6月
東京大学気候システム研究センター長
中島 映至