阿部彩子准教授 2007年度日本気象学会堀内賞受賞

 阿部彩子准教授の日本気象学会堀内賞受賞おめでとうございます。この受賞は気候システム研究センターにとって喜ばしいできごとですが、気候研究、雪氷と古気候研究コミュニティーの研究者にとってもおおきな励ましになるものと思います。この受賞が物語るように、阿部さんが明らかにしてきた氷床と気候系の相互作用に関する研究成果は、地球気候系の形成メカニズムの理解、氷期・間氷期メカニズムの解明、さらに現在の地球温暖化問題における将来気候の予測にとって大きな貢献になるものです。特に氷床モデルと数値気候モデルを組み合わせたグリーンランド氷床の消長シミュレーション、さらに最近のミランコビッチサイクルの再現実験などは、長年の難題にブレークスルーを与えるものだと思います。

 氷床モデリングやそれを利用した古気候研究は、息の長い地道な努力が必要な研究課題ですが、阿部さんがこのような長い道のりを踏破してきたことは尊敬に値することだと思います。私が阿部さんに出会ったのは、彼女が学振PDとしてスイス工科大学から日本に戻って気候センターに在籍を始めたときのことでした。そのとき、私が気象研究ノートに書いた古いミランコビッチサイクルに関するレビューを覚えていてくれたことなどで、よくお互いに研究をがんばろうねと励ましあったことがありました。若い人たちに言いたいですが、このような大学等における研究現場の雰囲気こそが、困難な研究にこぎだしている研究者やこれから始めようとしている学生さんを育む重要な環境だと思います。このような研究現場から、阿部さんに続く若い人々が多く出てくることを期待します。


CCSRセンター長 中島 映至

※日本気象学会堀内賞は、主に気象学の境界領域・隣接分野あるいは未開拓分野における調査・研究・著述等により、気象学あるいは気象技術の発展・向上に大きな影響を与えているものに贈られる賞である。今回、評価された業績は「氷床及び古気候に関するモデリング研究」。

受賞者紹介

2007年度日本気象学会堀内賞受賞
阿部 彩子 准教授


【受賞発表年月日】2007年8月2日
【受賞式年月日】2007年10月15日

業績 : 「氷床及び古気候に関するモデリング研究」

選定理由:

阿部彩子氏は、氷床モデルの開発やそれと大気大循環モデルを合わせ用いた研究を推進し、グリーンランド氷床や南極氷床への気候の影響、氷期-間氷期サイクルといった極めて長い周期の気候変動における氷床の役割を明らかにした。阿部氏は、1990年代に2次元の氷床モデルを開発し、グリーンランド氷床に適用することにより、氷期-間氷期における氷床の状態について考察を行った。その後、ヨーロッパ氷床モデル研究計画(EISMINT:European Ice Sheet Modeling INiTiative)に参加するとともに、現実的な氷床に適用可能な3次元氷床モデルの開発やそれを用いた研究を精力的に実施し、氷床力学の発展や氷床の諸物理量の再現と変動の解釈に貢献した。たとえば、南極氷床の形状や流動、温度を計算し、観測データと整合することを示すとともに、当時まだコア掘削が到達していなかった南極ドームふじ基地の氷床底面が融解している可能性が高いことを予想した。実際、底面融解はその後の掘削によって確認され、高度な氷床モデルは深層氷床掘削に重要な指針を与えることができることを示した。また、グリーンランド氷床の縁辺付近の形状変化の再現や、気候が温暖化した際のグリーンランド氷床の変化についても研究を行った。

 上記の氷床モデルによる研究に加え、阿部氏は高解像度のCCSR/NIES 大気大循環モデルを用いた研究も広範に展開し、氷床上の降水量や大気循環について解析を行うとともに、氷床モデルのためのパラメタリゼーションを改良した。これらの研究から得られた結果を基に数多くの感度実験を実施して、氷期-間氷期サイクルにおける氷床変動に関わる物理過程を検討し、氷床モデルを10万年以上にわたって長期積分する方法を新たに提案した。また、地球軌道要素に基づいて計算した日射量変化と氷床コア分析によって復元された大気中二酸化炭素濃度変化を用いることによって、氷期-間氷期サイクルを再現することに初めて成功し、さらに結果がモデルパラメーターにどのように依存するかについても詳細に検討した。 阿部氏は古気候に関しても優れた研究を行っている。たとえば、新生代に南極氷床が形成された際に生じた地上気温の低下は南極大陸付近に限定され、それによる全球的な寒冷化の効果は大気中二酸化炭素濃度の低下によるものより小さいことを、大気大循環モデルを用いて明らかにした。また、古気候モデル相互比較研究(PMIP:Paleoclimate ModelIntercomparison Project)に参加し、約2万年前の最終氷期や約6000年前の最適温暖期の気候状態を再現する研究を行った。なお、阿部氏は、現在、PMIP やIGBP-GAIM(現AIMES:Analysis,Integration and Modeling of the Earth System)などの科学運営委員会メンバーとして、古気候研究の分野において日本と世界をつなぐ重要な役割も担っている。

 以上の研究は、力学や熱力学などを基礎とした氷床ダイナミクスの理解のみならず、地球温暖化の予測や古気候の復元にとっても極めて重要であり、氷床-大気相互作用に関する特筆すべき学際的研究と位置づけられる。以上の理由から、日本気象学会は阿部彩子氏に2007年度堀内賞を贈るものである。

関係学会へのリンク : http://wwwsoc.nii.ac.jp/msj/docs/Horiuchi.html