異常気象要因分析


2008年7月の循環偏差について

JCDASによると、赤道インド洋、熱帯北西太平洋、インドネシア周辺域に活発な対流活動を
反映すると考えられる正の凝結加熱偏差が見られる。そこで、それら3領域に仮想的な熱源
偏差を与え、各々LBMの応答を求めて観測される日本周辺の循環偏差場の要因を検討した。
JCDASには不活溌な対流に対応する冷源偏差も見られるが、それらはとりあえず考慮しない。

以下で、JCDASの月平均偏差とLBMの応答を比較した。図2-5は全て(左上)JCDASの偏差、
(左下)赤道インド洋の熱源に対する応答、(右上)熱帯北西太平洋の熱源に対する応答、
(右下)赤道西太平洋の熱源に対する応答、の順である。

SLPの応答(図2)を見ると、日本の南東にある低圧偏差は主に熱帯北西太平洋(150E-180, 
20N付近)の加熱が強制しているようであり、他の熱源は東アジア域に大きな偏差を生じない。
中層の高度場偏差についても同様であるが、JCDASでは顕著な日本の北東にある強い正偏差は、
LBMでは再現されていない(図3)。さらに、上層流線関数を比較すると、日本南東の偏差は
JCDASとLBM(図右上)で符号が逆である(図4)。これは、LBMの応答が近傍の熱源に対する
傾圧的なものであるのに対し、JCDASの偏差は等価順圧成分が卓越していることによる。
このことは、今回の日本周辺域−特に高緯度側−の循環偏差形成には、リモートな加熱からの
波束伝播あるいは中緯度での渦強制が重要であったことを示唆する。

実際、JCDASから推定される2008年7月の凝結加熱偏差、放射加熱偏差、および1ヶ月以下の
擾乱に伴う渦強制(渦度と顕熱フラックスの水平収束)を各々与えて解いた高度場の応答では、
渦強制のみが日本北東(JCDASに比べるとやや南にずれるが)の正の順圧的な高度場偏差を
再現する(図6,図7)。

追加診断として、図1に若干見られる台湾周辺の加熱偏差の効果を調べるため、仮想熱源を
与えた応答を求めた。図8にJCDASの500hPa ω偏差および、LBMにおけるωの応答を示す。
熱帯北西太平洋および台湾周辺に与えた熱源は、各々その北西側にロスビー応答に付随する
下降流偏差を形成する(図8右上と右下)。しかし、JCDASおよびJCDASの凝結加熱偏差を
与えたLBMの結果(図8左上と左下)に現れるような日本付近の特に強い下降流はできなかった。
JCDASにおける130Eに沿った加熱偏差の断面(図9)によると、日本付近の冷源は、浅く強い
放射冷却(地表面が温まった結果か?)と、上空の弱い凝結冷源から成っている。地表面の
温暖化は雲がない帰結と思われるため、別の要因(例えば南方の加熱正偏差)によって
下降流偏差ができた結果、平年は存在する前線帯の加熱が減少し、さらに下降流偏差を強めた
のではないかと推測される。

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