北極海の海氷域面積は9月の最小期に約423万平方キロメートルまで縮小する見込みです。これは昨年とほぼ同じで、2012年に次いで観測史上2番目に小さい面積です。

図1:今年9月10日の海氷分布予測図。色は海氷密接度、単位は%。

図3:8月1日から9月30日までの海氷分布予測値(白い場所が海氷)のアニメーション。実線は過去二年分の同じ日の氷縁(密接度30%の位置)を示す。

 海氷最小期にあたる9月10日の北極海氷域面積は、約423万平方キロメートルになると予想されます。これは昨年および2016年とほぼ同じで、観測史上2番目に小さな面積です。


  現在、北極海の海氷域面積は観測史上もっとも速いペースで減少しています。これはシベリア側のラプテフ海周辺域で海氷域が急速に後退したためです。今後はこのシベリア側での急速な海氷後退は落ち着いてきます。


 一方で、アラスカ側のボーフォート海では現在まで海氷域の後退があまりすすんでいませんでした。これはこの海域が厚い多年氷で覆われていたため(図5)と考えられます。しかし、8月上旬にはアラスカ側海域でも急速に海氷域が縮小する見込みです。


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 この予測は、7月15日時点での海氷密接度および海氷日齢と、8月以降の海氷密接度との関係をもとにして行いました。データは人工衛星搭載の国産マイクロ波放射計AMSR-EおよびAMSR2によって得られた2003年以降のものを用いています。また、この期間での海氷密接度の長期変化傾向も考慮に入れています。


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 毎日の予測図は国立極地研究所の北極域データアーカイブでも見ることができます。

図2:2003年以降の最小海氷域面積(9月10日の海氷面積)の年変化。2020年の値は今回の予測値。昨年までの海氷域面積は気象庁による集計値

北極海の衛星モニタリングや海氷予測、ここで用いた予測手法についてご質問がある場合は、木村(kimura_n@aori.u-tokyo.ac.jp)までお問い合わせください。

この予測とその基礎となる研究は、

北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)で実施しました。

図4:「予測された海氷密接度」の「2003年以降の線形トレンドから予測される密接度」からの偏差。赤が長期トレンドから予想されるより早く海氷がなくなる場所を示す。

図5:2018年, 2019年, 2020年7月15日の海氷の日齢分布。オレンジ色から赤色の領域が前年の夏を越えた多年氷、緑色から青色の領域が若い一年氷を示す。去年に引き続き今年も多年氷の領域が小さい。

北極海氷分布予報

2020年第三報:2020年7月30日


東京大学大気海洋研究所 木村詞明, 羽角博康