今、なぜ古気候?
「地球温暖化って言うけれど、気候は地球の長い歴史の中で常に変動してきたから心配いらないよ」、こんなつぶやきを耳にしたことはないでしょうか。ところが、気候の変化を考える際には、その大きさとスピードが重要になります。ボートはいつも揺れているからもっと揺らしてもよい、ということにはなりませんし、一日で真冬から真夏に変化したら私たちの体はついていけません。その原因や「揺れ方」も含めて、もう少し長い目で、近年の気候変動を位置づける必要があります。
日本古来の「ししおどし」はある一定量を超えた水が溜まると突然ひっくり返りますが、やがて元に戻ります。一方で、絶滅した生物は二度と現れません。地球の気候も負荷が大きくなるとある『転換点』を向かえてしまうのでしょうか、そして一度そこを超えたら元には戻れないのでしょうか。今は安定しているように見える気候システムの行く先はどうなっているのでしょうか。これを簡単なイラストで表したのが下の図です。くぼみに嵌ったボールのように、地球の気候システムが安定であれば、ある程度CO2が増えていってもやがてまた自然に元に戻ります。もし不安定であれば、ある閾値を越えた瞬間に崖から転落してしまいます。大気や海洋の変化にともなって、長い年月が経過した後に、植生分布や氷床はどのように変化するのでしょうか。そしてその変化は、大気や海洋に再びどのような影響を与えるのでしょうか。今を見つめるだけでは、気候システムの全体像は見えてこないのです。
こうした疑問に答え、将来の気候変化において「想定外」を起こさせないためには、今をじっくりと見つめながら、地球が実際に経験した過去の気候から学び、現在とはまったく異なった条件の下での気候変動を理解することも重要です。
図 二酸化炭素(CO2)濃度の増加に対して安定なシステムと不安定なシステム