研究の背景:なぜ古気候? 南極氷床?

(本文章は, 2020年春に発行された新学術ニュースレターに書いた文章に加筆したものです.)

●気候システムとは? 気候システムをモデリングするとは?

 私が自身の研究を説明するときには, 身近な気候の話から始めることにしています。まず気候とは, 日々の天候を平均したようなもの, と説明しています。たとえば, 日々の天候はさまざまでも, おおまかには毎年同じような季節変化があるのが1つの気候の例です。子供でも, おおむね同じような季節の変化を繰り返しているということはなんとなく身についているでしょう(1*)。この気候が地球温暖化によって変わりつつあるのが今の時代です。例えば, 福井(2*)では1年間を平均した気温は過去100年で1.5度上がりました。おおざっぱには, 100年前の福井の気温は現在の酒田に相当するといえます。日々の生活では実感しづらいものですが, 2019年は, 冬の雪が減少して西日本ではスキー場が閉鎖, 夏は夜の高温で稲の作柄が悪くなったように, 長い目で見れば生活に影響が出てきます。

福井地方気象台の1912年から2020年の気候変化. 上から, 6-8月の夏季平均気温, 年間平均気温, 12-2月の冬季平均気温, 年間最深積雪を示す.

 地球温暖化を説明するためには, 地球をより広い状態, 上空の大気や深海の状態までも含めた「気候システム」ととらえて理解することが必要になります。ちょうど日本の気候を考えるときに, 地球規模の循環や, 東アジア域の大気海洋循環によって影響を受けることを考える具合です。長い目で見た場合, 地球が太陽から受け取る熱量と宇宙に放出する熱量がつりあうことで地球の平均気温がおおむね一定に保たれます。この状態から大気中の温室効果ガスが増えると, 地球が宇宙に放出する熱量が少なくなり, より地球に熱がたまるようになって温まるのが地球温暖化の仕組みです。実際の気温変化量がどうなるかは, 赤道域の熱量を極域に運ぶ大気・海洋の流れの状態やその変化など, 地球上の熱分布を決めている過程を考える必要があります。

 このことを如実に表しているのは, ... 以降、執筆中。。。
 気候システムとは? 「」(citation)
 考える時空間スケールによって相対的役割が変わるということです。
▽脚注
(1*) もともと私が気候というものを意識したきっかけがまさにここにあります. これは小学校低学年程度のときのエピソードですが, 祖父母(1930, 1931生)が子供の頃, 家から外に出るために2階から出るくらい雪が積もったことがあるというエピソードを聞きました。そのころにはおおまかには天候の季節変化をなんとなく理解しており, 冬になれば数十cmくらい雪が積もるものであることをわかっていましたから, 今の時代は昔ほど雪が降らないものだ, という感想を持ちました(その理由を地球温暖化と結びつけたかどうかはわかりませんが)。過去の気象記録を調べるとわかることですが, 1936年の大雪をさすと考えられ最寄りの山田村で積雪210cmを記録しています。気温以外の気候パラメータが日常生活と関連するインパクトを持つということです.
(2*) 私の実家から近いことと, 多くの人が知っている大都市であること(x豊岡), おおむね100年以上の気象庁観測があること(x舞鶴), 冬季積雪が十分あることから選んでいます.

以降の項目もすべて執筆中ですが, 概要のみ書いたので公開します.

●気候モデリングから考える地球史

 モデルを用いた古気候学研究を短く説明するならば, 「気象学の知識を使って, 地球史を考える」といいます.

●南極氷床と気候に関するもう少し掘り下げたはなし

 私の研究の多くが南極氷床にかかわります。南極氷床に着目する動機はおもに2つあります。1つ目は、南極氷床が減ることによって海水準が上がるとか、海洋循環が変わるといった、南極氷床自体を知りたい、およびそれによって生じる気候システムの変化を知りたいという動機にあります。2つ目は、南極氷床を調べることで過去の環境変動を知ることができることにあります。というのも、南極の氷には過去の大気組成の情報や、過去の南極の暖かさが水同位体比などに記録されているからです。

 冒頭の例に示したように, 気温変化によって環境への影響が出るのが温暖化問題ですが, その一つが極域の氷床の融解です。氷床は陸上にふった雪が夏でも解けずに残り, 長い年月をかけて氷となったものです。極域の気温が上がると氷が融解するようになり, その水は海に流れこむので海水の体積が増え海面が上昇します。2010年代は、世界で平均して年間およそ4mmの速さで海面が上昇しています。現在の南極の氷床質量の減少速度は年1mm弱と推定されていますが, 南極大陸には海水準を60m程度上げる量の氷が存在しますし, 今後の温暖化によって短い時間で急激に氷床が失われる可能性があることが指摘されています。このような急激な変化の可能性は, 海洋の流れや, 生態系などにもあてはまります。温暖化によって生じる変化は気温だけでなくほかの地球環境への影響があり, そのいくつかは社会にとって急激になりうるものであることが問題点です.

 

●温暖化論議について

 温暖化論議についてですが、温暖化の否定がかかわってくる質問のうち、一般公開で聞かれそうなくらいの典型的なものや、自身の研究分野に関連するちょっと深めのものについてはすっとこたえられるべきだと常々思っています。そのためには、日常から考える機会を作っておくのは必要だと考えましたので、自身の研究分野に関連するちょっと深めの質問に対する考察をここにかきためておきます。なお、このような質問例はSkeptical Science https://www.skepticalscience.com/に充実した分量の解説と議論がありますので, このページは知識を紹介するというよりは, 自分の言葉で話すことを主目的として作成します。
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