2007年度前期 発表者 (敬称略)
4/19 浦川 (CCSR M2)
4/26 松村 (CCSR D3)
5/10 川崎 (CCSR D3)
5/17 渡邉 (CCSR D3)
5/24 建部 (CCSR 教員)
5/31 渡辺 (CCSR PD)
6/7 黒木 (CCSR PD)
6/14 岡 (CCSR 特任助手)
6/28 北内 (地球環境フロンティア)
7/26 小室 (地球環境フロンティア)
8/23 遠藤 (CCSR 教授)
8/30 羽角 (CCSR 准教授)
9/6 竹内 (いであ株式会社)
9/13 坂本 (地球環境フロンティア)
9/20 渡邉 (CCSR D3)
過去の発表概要はこちら
研究の進捗状況の報告と修士論文に向けての所信表明。
Adcroft et al. (2001)によって海底熱源が子午面循環に大きな影響を与え得ることが示唆されている。また海面での熱フラックスに比して、海底熱源
が多量のポテンシャルエネルギーを生成できる事も知られている。
そのため海底熱源の影響評価において、エネルギー収支からのアプローチは有効な手段のひとつであると考えられる。
今回のセミナーではこれまでの研究の報告とこれからの展望について発表を行う。
参考文献:
Huang and Jin, 2006: Gravitational Potential Energy Balance for the Thermal Circulation in a Model Ocean, JPO, 36, 1420-1429.
subgrid scaleの乱流輸送を粗い解像度のモデルでパラメタライズする手法として, Smagorinsky (1963)によるstrain rateに比例する渦拡散・粘性係数を与えるモデルが広く用いられているが、このモデルでは比例定数をどのように選ぶかの任意性がある.
モデル格子が慣性小領域のスケールで、かつ乱流が等方である場合には局所平衡理論に基づき解析的に比例定数を求めることが可能であるが、現実的なアプリケーションにおいてはモデル定数をtuning parameterとして扱わざるを得ない.
Germano et al. (1991) 等によりこのモデル定数をgrid scaleの解像されている場の情報から逐次動的に診断して用いる手法(Dynamic LES)が提案され、主に工学の分野で一定の成果を上げている.
今回のセミナーではこのDynamic LESの手法をレビューするとともに、成層や地形に起因する非等方性
モデルへの拡張について考察し、海洋モデルへのDynamic LESの適用の可否について議論する.
参考文献:
Smagorinsky, 1963:‘General circulation experiments with the primitiveequations, I. The basic experiment,
Monthly Weather Review, 91, 99--164
Germano et al., , 1991: A dynamic subgrid-scale eddy viscosity model,
Physics of Fluids, A3, 1760--1765
Moin et al., 1991: A dynamic subgrid-scale model for compressible turbulence and scalar transport,
Physics of Fluids, A3, 2746--2757
Lily, 1992: A proposed modification of the German0 s&grid-scale closure
method,
Physics of Fluid, A4, 633-635
Wajsowicz, 1993: A Consistent Formulation of the Anisotropic Stress Tensor for
use in Model of the Large-Scale Ocean Circulation,
J. Computational Physics, 105, 333--338
太平洋の熱塩循環は、南大洋から約20Svの底層水が太平洋へ流入し、約半分ずつ南北太平洋で上昇し、深層上部で南下し南大洋に戻るとされている(Schmitz, 1995)。
Tsujino et al. (1999)では、Schmitz (1995)で示された太平洋深層上部の南下流を再現するために、主躍層下部で急激に値が変化する鉛直拡散係数の鉛直1次元分布を提唱した。
しかし、Tsujino et al. (1999)を用いた海洋大循環モデルの実験結果によると、再現された太平洋深層上部のreturn flowは、西岸境界流として存在しており、Schmitz (1995)で示された、内部領域での南下流とは、その位置(経度)やそれを維持する力学が異なっている。
また、Schmitz (1995)で示された深層上部での南下流は、深層上部で南側に張り出した低珪酸塩水の舌状構造から推定されたものだが、モデル実験によって、return flowがない場合でも、同様の舌状構造が再現されることが明らかになった。
今回のセミナーでは、上記のモデル実験の結果や、Schmitz (1995)以外の、太平洋深層循環の観測による見積もりの事例を踏まえ、Schmitz (1995)で示された、太平洋深層上部での南下流について再検証する。
参考文献:
Tsujino, H., H. Hasumi, and N. Suginohara, 2000: Deep Pacific circulation controlled by vertical diffusivity at the lower thermocline depths.
J. Phys. Oceanogr., 30, 2853-2865.
Schmitz, W. J., 1995: On the interbasin-scale thermohaline circulation.
Rev. of Geophys., 33, 151-173.
Wijiffels, S. E., 1993: Exchanges Between Hemispheres and Gyres: A Direct Approach to the mean circulation of the Equatorial Pacific.
Ph. D. dissertation, Woods Hole Oceanogr. Inst. and Mass. Inst. of Technol.
Reid, J. L., 1997: On the total geostrophic circulation of the Pacific Ocean: Flow patterns, tracers, and transports.
Prog. Oceanogr., 39, 263-352.
Lupton, J., 1998: Hydrothermal helium plumes in the Pacific Ocean.
J. Geophys. Res., 103(C8), 15853-15868.
Talley, L. D., J. L. Reid, and P. E. Robbins, 2003: Data-based meridional overturning streamfunctions for the Global Ocean.
J. Climate, 16(19), 3213-3326.
北極海のカナダ海盆域における熱・淡水収支にとって重要な太平洋起源水の輸送過程を水平解像度約2.5 kmの渦解像海氷海洋結合モデルを用いて明らかにした.
モデル領域の側面からベーリング海峡通過流を与えると海底地形に沿うようにアラスカ沿岸流が卓越し,等深線が収束するBarrow Canyon周辺で不安定渦が生成される.
陸棚海盆境界まで輸送された太平洋起源水はこの不安定渦によってカナダ海盆域に流入した後,海盆スケールの高気圧性循環に沿って海盆中央部に輸送されていることがわかった.
また,複数の異なる海氷分布を初期条件として与えた実験間の比較から不安定渦の生成やそれに伴う太平洋起源水の陸棚海盆間輸送は夏季に海氷縁が後退しているほど促進されることを明らかにした.
ENSOに関わる大気海洋の変動場及び基本場の改善方法について述べた論文をいくつか紹介する。 また、現在COCOへ導入作業中の移流スキームの説明及びその1次元,2次元でのテスト結果(一様流内での移流実験)を他のスキームとの比較を行いながら紹介する。
風応力は,海洋内での混合過程のエネルギー源のひとつと考えられている.
海洋に供給されたエネルギーのうち多くが混合層内で散逸するが,過去の研究の多くは内部領域での混合の重要性について議論しているのみで,混合層内で散逸するエネルギーと子午面循環の関係はいまだ明らかになっていない.
そこで,2次元の分析モデルと3次元の数値モデルを用い,混合層の厚さと子午面循環の強さおよび極向き熱フラックスとの関係を示す.
本研究の結果によれば,低中緯度における混合層が厚くなると子午面循環と極向き熱フラックスが強まる.
また,それと同時に内部領域での混合に使われる力学的エネルギーが小さくなる.
参考文献:
Huang et al., 2007: Dynamical roles of mixed layer in regulating the meridional mass/heat fluxes.
JGR, 112, C05036, doi:10.1029/2006JC004046
人工衛星の海面高度計のデータを用いた解析から、黒潮続流に10年程度の時間スケールを持つ変動が見つかっている (Qiu and Chen 2005)。
1993年頃は黒潮続流は強く、北に位置し、変動が小さいが、1997年頃には続流は弱く、南に位置し、変動が大さくなる。そして、2002年頃には再び前の状態に戻る。
この変動の原因について違った見方をした2つの論文を紹介する。
Qiu and Chen (2005) は、海面高度計のデータと線形渦度方程式モデルを用いた解析から、続流の強度・位置の変化が北太平洋東部の風応力変動によって引き起こされると主張している。また、続流が南に位置するときは伊豆海嶺の浅い部分を通るため変動が大きくなるとしている。
一方、Pierini (2006)は、定常な風応力で駆動される1.5層浅水方程式モデルを用いた数値実験で同様の変動が現れることを示し、続流の10年スケールの変動が内部振動である可能性を指摘している。
参考文献:
Qiu, B. and S. Chen, 2005: Variability of the Kuroshio Extensionjet, recirculation gyre, and mesoscale eddies on decadal time scales.
J. Phys. Oceanogr., 35, 2090-2103.
Pierini, S., 2006: A Kuroshio Extension system model study: Decadal chaotic self-sustained oscillations.
J. Phys. Oceanogr., 36, 1605-1625.
海洋中の植物プランクトンに含まれるクロロフィルは、海水に比べ短波放射に対して非常に不透明であるため、海洋中の短波放射の鉛直分布はそこでのクロロフィル濃度に依存している。
一方、植物プランクトンの濃度は、日射量やそこでの栄養塩濃度などに依存して時間・空間的に変動している。
しかしながら、OGCMではそれにともなう短波放射吸収の空間分布・時間変化は考慮せずに、海洋中での短波放射吸収の鉛直スケール(透過深度)は時間・場所によらず一定として扱うことが通常である。
クロロフィル濃度は海洋の涌昇流による表層への栄養塩の供給量に大きく依存する。よって、特にENSOに伴うその濃度変化が、透過深度の変化を通じて物理場にどのようにフィードバックするのかについてのモデル研究はこれまでにも行われてきた。
それらの研究は、簡略化モデルやOGCMのみを用いたものであったが、近年になって、CGCMに海洋の生物過程を組みこみ、透過深度の変化を通じた大気・海洋・海洋生物間のフィードバック過程を陽に扱ったモデルによる研究が行われはじめている。
セミナーでは、以下の2つの論文を中心にこれらの話題に関係した論文紹介を行う。
参考文献:
Lengaigne M, Menkes C, Aumont O, et al. Influence of the oceanic biology on the tropical Pacific climate in a coupled general circulation model.
CLIMATE DYNAMICS 28 (5): 503-516 APR 2007
Wetzel P, Maier-Reimer E, Botzet M, et al. Effects of ocean biology on the penetrative radiation in a coupled climate model.
JOURNAL OF CLIMATE 19 (16): 3973-3987 AUG 2006
ドイツのグループのラブラドル海の領域モデリング研究の最新の結果を紹介する.
参考文献:
Brandt et al. (2007) Ventilation and Transformation of Labrador Sea Water and Its Rapid
Export in the Deep Labrador Current.
南大洋は北部北大西洋とともに、水が浮力を失って沈降し深層水が形成される海域である。
この過程には、表層付近で形成された高密度水だけでなく大西洋から流れてきた深層水も関わっており、その意味で南大洋は北大西洋で形成された深層水が再度浮力を失い沈降する場所ととらえることもできる。
その一方で、大西洋からの深層水の一部が湧昇する過程においても南大洋はしばしばその重要性が指摘される。
このように全球海洋大循環にとり重要な海域である南大洋であるが、南極周極流流域での活発な渦活動、陸棚域での大気-海洋-海氷-氷床相互作用による水塊形成とその深層への沈み込み過程など、全球海洋大循環との関わりで重要とされるさまざまな過程の多くは、まだ理解が十分とは言えないのが現状である。
今回のセミナーでは、そのような過程に関して述べた最近の論文3編を紹介する。
参考文献:
Ou, H. W. (2007): Watermass properties of the Antarctic Slope Front: A simple model.
J. Phys. Oceanogr., 37, 50 - 59, 2007.
Whitworth III, T. and Orsi, A. H. (2006): Antarctic Bottom Water production and export by tides in the Ross Sea.
Geophys. Res. Lett., 33, L12609, 2006.
Garabato, A. C. N., Stevens, D. P., Watson, A. J. and Roether, W. (2007):
Short-circuiting of the overturning circulation in the Antarctic Circumpolar
Current. Nature, 447, 194 - 197, 2007.
高緯度での表層水の淡水化が深層熱塩循環に及ぼす影響として、 大西洋で子午面循環が停止するという話はよく知られている。
これに対して、本論文では、風成循環+熱塩循環に伴う子午面循環について、矩形OGCM(MOM)モデルを用いて、表層高緯度の低塩分化の影響を調べ、 表層での南北熱輸送の減少に対応して、赤道における東西SST勾配が著しく減少する"Permanent El Nino"の可能性があることを示す。
鉛直拡散係数は表層の熱塩循環の強さのメジャーとしてPENを妨げる。
参考文献:
A.Fedorov, M.Barreiro, G.Boccaretti, R.Pacanowski, S.G.Philander:
The freshning of surface waters in high latitudes:Effects on the thermohaline and wind-driven circulations.
J.Phys.Oceanogr., 37,896-907.2007.
A.Fedorov, P.S.Dekens, M.McCarthy, A.C.Ravelo, P.B.deMenocal, M.Barreiro, R.Pacanowski, S.G.Philander:
The Pliocene Paradox (Mechanisms for a Permanent El Nino)
Science, 312,1485-1489, 2006
A.Fedorov, G.Boccaretti, R.Pacanowski, S.G.Philander,M.Barreiro:
The Effect of Salinity on the Wind-Driven Circulation and thermal Structure of the Upper-Ocean.
J.Phys.Oceanogr., 34,1949-1966,2004.
上記テーマに沿った論文数本の紹介
上記テーマに沿った論文の紹介をします。
河口域にみられる定常流(Estuary Residual Current,ERC)に関して、古典的な定常モデルには含まれていない潮汐の効果について議論した論文を紹介します。
また、潮汐振幅が変化した際にERCに及ぼす影響を検討した研究や近年の河川・河口域のシミュレーション事例についても紹介します。
参考文献:
Burchard, H. and H. Baumert (1998):
The formation of estuarine turbidity maxima due to density effects in the salt wedge. A hydrodynamic process study.
J. Phys. Oceanogr., 28, 309-321.
Warner JC, Geyer WR (2005):
Numerical modelling of an estuary: acomprehensive skill assessment.
J Geophys Res 110:C05001. DOI 10.1029/2004JC002691
Shiraki,Y. and T.Yanagi(2007):
Dynamics of estuarine residual circulation in a narrow channel including tidal-nonlinear efffects.
Journal of Oceanography,Vol.63, pp.413-425
T106(dx~1.1deg)の大気モデルと渦なし(dx~1.4deg)及び渦許容(dx~1/4deg)の海洋モデルを結合させた気候モデル(MIROC)を用いた温暖化実験において得られた、subtropical cellとtropical cellの応答の違いについて紹介する。
北極海全域を対象とした水平解像度25 kmの中解像度モデルを10年間積分したところ,観測に比べてシベリア側で低塩分偏差,カナダ側で高塩分偏差という先行研究と同様のバイアスが生じた.
そこで北極海の淡水収支を構成する各要素の寄与を見積ったところ,ベーリング海峡から流入する太平洋起源水の陸棚海盆間の輸送を過小評価していることが塩分偏差の重要な要因であることが示唆された.
そこでチャクチ陸棚域からカナダ海盆域にかけてを対象とした水平解像度2.5kmの渦解像モデルを駆動して,太平洋起源水の輸送過程を解析したところ,太平洋起源水の多くは渦活動によって海盆域に流入しており,その不安定渦の生成とそれに伴う太平洋起源水の流入量は夏季に海氷縁が後退するほど促進されることが明らかとなった.
この知見を踏まえ,再び中解像度モデルにおいてGM層厚拡散係数を各海域の傾圧性に依存する形で時空間変化させることで,太平洋起源水の海盆域への輸送が促進され,海盆域での塩分偏差がかなりの割合で解消されることが明らかとなった.