CCSR海洋循環セミナー 08年度前期


2008年度前期 発表者 (敬称略)

4/17 浦川 (CCSR D1)
4/24 松村 (CCSR D3)
5/1 川崎 (CCSR D3)
5/8 草原 (CCSR PD)
5/15 渡邊 (CCSR 特任研究員)
5/22 笹島 (CCSR PD)
5/29 (CCSR 特任助手)
6/5 藤崎 (工学系研究科 D3)
6/12 渡辺 (CCSR PD)
6/19 黒木 (地球環境フロンティア)
6/26 建部 (CCSR 教員)
7/17 小室 (地球環境フロンティア)
7/24 羽角 (CCSR 准教授)

過去の発表概要はこちら


4/17 浦川 昇吾 (CCSR D1)
題目: SAMW形成過程とその性質の時間変動に関する論文の紹介

Subantarctic Mode Water (SAMW)は冬季の強い鉛直混合によってSubantarctic Frontの北部で形成される水塊である。SAMWは北大西洋深層水形成に伴う循環のreturn flowの大部分を占めるとも言われており、その形成過程についての知見を深めることは熱塩循環を理解する上でも重要な課題である。またSAMWは海洋の大気中二酸化炭素吸収に大きな影響を持つとも言われており、また太平洋や大西洋などの上層に多量の栄養塩を供給する役割を担っているという報告も為されている。そのためSAMWの形成過程やその輸送に関しての研究は気候変動を考える上でも重要なものとして認識されている。またSAMWはその温度・塩分プロファイルが時空間的に大きく変動することが観測から知られている。上記のようにSAMWは気候形成に関して重要な役割を担うと考えられているため、その変動に関する研究も盛んに行われている。本セミナーでは題目の通りSAMW形成過程とその性質の時間変動に関する論文を数本紹介する。

参考文献:
Rintoul and England (2002), Ekman transport dominates local air-sea fluxes in driving variability of subantarctic mode water, J. Phys. Oceanogr., 32, 1308-1321.

Sallee et al. (2006), Formation of subantarctic mode water in the southeastern Indian Ocean, Ocean Dynamics, 56, 525-542.

Sallee et al. (2008), Eddy heat diffusion and Subantarctic Mode Water formation, GRL, 35, L05607.


4/24 松村 義正 (CCSR D3)
題目:非静力学モデルによる高解像度シミュレーションにむけて

内部重力波の砕波による乱流混合や, 局所的に形成された高密度水が深層まで沈み込む過程といった海洋の微小スケールプロセスは, 全球規模の循環を駆動する要因であり, その重要性が指摘されている.しかし直接観測が困難なこともあり, 未だ定量的な理解はなされていない.一方近年の計算機の著しい発達によって, 現実海洋を対象としながらこれら微小スケールプロセスを陽に解像する数値実験が可能となりつつある.

我々は水平格子幅 数10 ~ 数100m 程度のスケールを対象とする極めて高解像度の領域シミュレーションを想定した海洋非静力学モデルの開発を行っている.ある程度パッケージとしてまとまったので, モデルの詳細と想定される適用例,予備的実験の結果を紹介する.


5/1 川崎 高雄 (CCSR D3)
題目: 全球熱塩循環における局所的mixingの役割について

Kuril Straitsでの局所的かつ強い鉛直乱流混合によって、太平洋熱塩循環がどのような影響を受けるかについて、最近行った実験結果を紹介する。また、この局所的な強い混合が全球熱塩循環において、どのような役割を担っているかを今後調べる予定である。そのために知っておくとよいと思われる、太平洋と他海盆を結ぶインドネシア通過流の全球熱塩循環における役割について論じている(具体的には、インドネシア多島海の開閉による違いを調べている)文献をいくつか紹介する。

参考文献
[1] Hirst and Godfrey (1993):
The role of Indonesian Throughflow in a global ocean GCM.
J. Phys. Oceanogr., 23, 1057-1086.

[2] McCreary et al. (2007):
Interactions between the Indonesian Throughflow and circulations in the Indian and Pacific Oceans.
Progress in Oceanogr., 75, 70-114, doi: 10.1016/j.pocean.2007.05.004

[3] Song et al. (2007):
The role of the Indonesian Throughflow in the Indo-Pacific climate variability in the GFDL coupled climate model.
J. Climate, 20, 2434-2451, doi: 10.1175/JCLI4133.1.


5/8 草原 和弥 (CCSR PD)
題目: 最近出た南極海の海氷海洋相互作用に関する論文紹介

一つは ロス海で iceberg の存在によって海洋循環や水塊がどう変化するかを数値モデルで調べた論文。もう一つは、南大洋全体で気温及び海洋の温度が上昇しているにも関わらず、南大洋の海氷の量が増加するメカニズムを数値モデルを使って調べた論文。

[1]
Dinniman et al. (2007):
Influence of sea ice cover and icebergs on circulation and water mass formation in a numerical circulation model of the Ross Sea, Antarctica.
JGR., 112, C11013, doi:10.1029/2006JC004036

[2]
Zhang (2007):
Increasing Antarctic sea ice under warming atmospheric and oceanic condition.
J. Climate, 20, 2515-2529


5/15 渡邊 英嗣 (CCSR 特任研究員)
題目:極域海洋生態系研究の現状と課題

内容:
 最近数年間に北極海で見られる急激な海氷縁後退は海洋生態系への影響をも巻き込んだ危機的状況にあり,早急にメカニズムを解明し,将来予測に反映させることが各方面から要請されている.北極海ではシベリアや北米大陸から大量に河川水が流入するために栄養塩と鉄は豊富に存在することが推察されるが,海氷が太陽光の多くを反射するために他の海域に比べて海洋中の生物活動が盛んでないことが知られている.しかし,今後さらに海氷縁が後退し,開水面が露出する割合が広がれば,光が制限要因でなくなることから植物プランクトンによる一次生産が活発化することが予想される.この変化は食物連鎖を介して動物プランクトンや魚類・哺乳類の生息域にも何らかのインパクトを与えると同時にゆくゆくは大気海洋間の二酸化炭素交換にも影響を及ぼす可能性がある.

 このような背景の下,アラスカ大学フェアバンクス校国際北極圏研究センター(IARC/UAF)と日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同で衛星や船舶を用いた観測と海洋生態系モデルを融合し,海氷縁後退が海洋生態系に及ぼす影響評価を目的としたプロジェクトIARC-JAXA Information System Arctic Marine Ecosystem Research が今春始動した.本発表ではこのプロジェクトの概要と極域海洋生態系に特有な物理・生物過程について紹介する.


5/22 笹島 雄一郎 (CCSR PD)
題目:オホーツク海での水塊形成に対する千島列島の局所的鉛直混合の役割

概要:
千島列島域では潮汐による強い鉛直混合が存在し、太平洋の熱塩循環に影響を及ぼすことが示唆されている。本発表ではオホーツク海北部で形成され、北太平洋中層水の起源水と言われる高密度陸棚水の形成に対する、千島の鉛直混合の影響を評価した論文のレビューを行う。

[1]
Nakamura et al. (2006):
Enhanced ventilation in the Okhotsk Sea through tidal mixing at the Kuril Straits.
Deep-Sea Research I 53, 425-448


5/29 岡 顕 (CCSR 特任助手)
題目:海洋化学トレーサー (230Th, 231Pa)のモデリングに関する論文紹介

海洋循環や海洋生物活動の指標として着目されている化学トレーサーについての論文を紹介する。

参考文献:
Siddall, M. et al., 2007: Modeling the relationship between 231 Pa/230 Th distribution in North Atlantic sediment and Atlantic meridional overturning circulation, Paleoceanography, Vol22, doi:10.1029/2006PA001358

Siddall, M. et al., 2008: Modeling the particle flux effect on distribution of 230 Th in the equatorial Pacific, Paleoceanography, Vol.23, doi:10.1029/2007PA001556


6/5 藤崎 歩美 (工学系研究科・環境海洋工学専攻 D3)
題目:オホーツク海における高解像海氷-海洋結合シミュレーション

近年の観測や数値モデルによる研究から、オホーツク海循環のいくつかの特徴が明らかになって来ている。風応力 カールに起因する反時計方向の循環、東サハリン海流、北西部陸棚域で生成される重たい水(Dense Shelf Water)、 千島列島沿いの潮汐由来の鉛直混合などである。

しかしながら、工学的利用のための海洋情報データセットの整備は発展途上の段階にある。山口研究室ではオホー ツク海における氷海油流出予測システムの開発、生態系シミュレーションを行なっている。本研究ではこれらに適 用できる良質な海洋データセット作成を目指し、1/12度格子の海氷-海洋結合シミュレーションを行う。

まず、外力として与える大気データの検討、大気-海氷間抵抗係数などのバルク係数のレビューを行なう。その上で モデル構成の違いが計算結果に及ぼす影響について整理する。

海洋モデルにはPriceton Ocean Model ベースのオホーツクOGCM (北大低温研内本氏提供)、海氷モデルには弾粘塑 性レオロジーに氷盤衝突レオロジーを加えた連続体モデル(佐川、博士論文)を用いる。大気データには気象庁領 域スペクトルモデル客観解析値を用いる。

セミナーでは、大気データの検討結果と、いくつかの数値実験結果(海氷を考慮する/しない場合、ブライン排出の み考慮しない場合、千島列島沿いで局所的に強い鉛直混合を与えた場合、鉛直拡散係数の背景値を変えた場合など。) について報告する。

参考文献:
Uchimoto, K., Mitsudera, H., Ebuchi, N., and Miyazawa, Y. (2007): Anticyclonic eddy caused by the Soya Warm Current in an Okhotsk OGCM. J. Oceanogr. Vol. 64 No. 3 379-391

佐川 玄輝, (2007): 氷盤衝突を考慮した海氷力学モデルの開発とそれを用いたオホーツク海の海氷数値計算. 東京 大学工学系研究科 博士論文


6/12 渡辺 路生 (CCSR PD)
題目: LADCP/CTD から見積もられる拡散係数分布とそれにより再現される子午面循環について

内部波理論からエネルギー散逸率および拡散係数は内部波のシアおよびストレインからパラメタライズされる.Kunze et al. (2006) ではこのパラメタリゼーションをインド洋などの各大洋における LADCP/CTD 観測のプロファイルに適用し,鉛直拡散係数を見積もった.その結果,拡散係数は赤道付近で 0.03x10^{-4} m2/s,20 度から 30 度で0.7x10^{-4} m2/s となった.

Palmer et al. (2007) は以上のようにして求めた拡散係数をインド洋における GCM に適用し,子午面循環に対する影響を調べた.再現された子午面循環の流量は数 Sv であり,過去に観測から推定されたインド洋における子午面循環の流量(eg., 9 Sv; Ganachaud, 2003) を再現するには 1 オーダー大きい拡散係数が必要となる.

参考文献:
Kunze et al., Global Abyssal Mixing Inferred from Lowered ADCP Shear and CTD Strain Profiles, JPO, 36, 1553-1576, 2006.

Palmer et al., The Influence of Diapycnal Mixing on Quasi-Steady Overturning States in the Indian Ocean, JPO, 37, 2290-2304, 2007


6/19 黒木 聖夫 (地球環境フロンティア)
題目: 論文紹介

黒潮流量・流速構造に関する最近の観測的研究を紹介します。
(1)は東シナ海におけるADCPとIES (Inverted Echo Sounder)を用いた観測、(2)は四国沖におけるIESを用いた観測です。

参考文献:
(1) Andres, M., M. Wimbush, J.-H. Park, K.-I. Chang, B.-H. Lim, D. R. Watts, H. Ichikawa, and W. J. Teague, 2008: Observations of Kuroshio flow variations in the East China Sea, J. Geophy. Res. 113, C05013.

(2) Kakinoki, K., S. Imawaki, H. Uchida, H. Nakamura, K. Ichikawa, S. Umatani, A. Nishina, H. Ichikawa and M. Wimbush, 2008: Variations of Kuroshio geostrophic transport south of Japan estimated from long-term IES observations, Journal of Oceanography, 64, 373-384.


6/26 建部 洋晶 (CCSR 教員)
題目: 論文紹介:「海洋フロント構造の大気場への影響」


7/17 小室 芳樹 (地球環境フロンティア)
タイトル:
論文紹介
「観測で見る北極海・南大洋の sea-ice thickness distribution」

要旨:
数値モデルを使った研究では、真の場の直接の反映である 観測結果との比較が欠かせない。しかし、極域の研究においては 観測が少ないために比較自体が困難であることが多い。特に 海氷の厚さについては、直接観測・リモートセンシングのどちらも 極めて難しいという事情から、観測は希少で比較も困難を極める。
本セミナーでは、そのような数少ない海氷観測の論文から、 単に氷の平均的な厚さだけでなく、ある海域中にどのような厚さの氷が どの程度存在するかという情報(thickness distribution)にまで 言及している観測的研究の論文 2 本を紹介する。

論文リスト:
Yu et al., 2004:
Changes in the thickness distribution of Arctic sea ice between 1958-1970 and 1993-1997.
J. Geophys. Res., 109, C08004.
Worby et al., 2008:
Thickness distribution of Antarctic sea ice.
J. Geophys. Res., 113, C05S92.


7/24 羽角 博康 (CCSR 准教授)
題目: 北太平洋モデリングのレビュー