最終更新日: 2012年8月29日

南極氷河の崩壊による深層水形成の変化

東南極域における高密度水形成」で述べたメルツ氷河舌領域の高密度水形成の原因となっているのは、メルツ氷河舌(図1中のMGT)という沖側に突き出た地形的特徴のもとで維持される沿岸ポリニヤの存在であるが、このメルツ氷河舌は陸ではなく南極大陸上の氷床が海上にせり出した氷河であり、海底まで達しない氷河が浮いた状態で存在している。

深層水形成にとって重要な役割を果たすこのメルツ氷河舌が根元から折れるというイベントが2010年2月に発生した。折れた氷河舌は氷山として外洋に流出し、その結果メルツ氷河舌領域の深層水形成環境は劇的に変化したものと考えられる。このメルツ氷河舌崩壊が深層水形成に及ぼす影響を評価するためのシミュレーションを実施したところ、高海氷生産領域の消失(図1右上)によってこの領域での深層水形成はほぼ無くなり(図1右下)、それによって長期的には太平洋に流入する南極周囲起源の深層水が大きく現象する可能性が示された。近年の観測によって北太平洋の最深部が昇温していることが示されており、気候の温暖化との関連性が取りざたされているが、メルツ氷河舌崩壊はその変化を上回る影響を北太平洋に及ぼす可能性も示された。


図1: 東南極域シミュレーション結果におけるメルツ氷河舌領域の(上)年間海氷生産量と(下)海底直上海水密度・速度。(左)メルツ氷河舌崩壊前、(右)崩壊後。 Kusahara et al. (2011) より。



参考文献

Kusahara, K., H. Hasumi and G. D. Williams (2011): Impact of the Mertz Glacier Tongue calving on dense water formation and export, Nature Communications, 2, 159.

ひとつ上に戻る