1. 1.北極海の海氷域面積は9月の最小期に約385万平方キロメートルまで縮小する見込みです。これは2012年に次いで観測史上2番目に小さい面積です。


  1. 2.ロシア側の北東航路では7月31日頃、多島海を除くカナダ側の沿岸では7月10日頃に海氷が岸から離れ、航路が開通する見込みです。

図1:今年9月10日の海氷分布予測図。色は海氷密接度、単位は%。

図3:7月1日から9月20日までの海氷分布予測値(白い場所が海氷)のアニメーション。実線は過去二年分の同じ日の氷縁(密接度30%の位置)を示す。

 海氷最小期にあたる9月10日の北極海氷域面積は、約385万平方キロメートルになると予想されます。これは観測史上2番目に小さな面積で、同じ日の比較で昨年より10パーセント小さく、最も面積の小さかった2012年より13パーセント大きな値です。


  夏季の北極海氷面積は最近数十年の間に急速に減少してきていましたが、2013年以降はその減少傾向が比較的落ち着いています。しかし、昨年は9月18日に415万平方キロメートルまで減少し、過去2番目に小さい面積になりました。今年は昨年よりもさらに海氷域が後退する見込みです。また、6月末時点での多年氷の分布(図5)を見ると昨年に引き続き多年氷の面積が小さい状態が続いており、北極海の広い範囲が若い一年氷で覆われていることがわかります。


 ロシア側海域に注目すると、例年と同様に東シベリア海では周辺海域より遅れて海氷域が後退します。海氷が大陸から離れ、ロシア側の開水面域がつながるのは、昨年よりやや遅い7月31日頃と予想されます。カナダ側海域では、昨年とほぼ同じ速さで海氷域が後退します。北アメリカ大陸沿岸は、7月10日頃に開水面域がつながり、航路が開通する見込みです。


 この予測には人工衛星搭載の国産マイクロ波放射計AMSR-EおよびAMSR2による観測データを用いました。おおまかな予測の手法については、2018年の第一報をご参照ください。今年は冬季の海氷の動きに加えて、2003年以降の海氷密接度の長期変化傾向も考慮に入れて予測を行なっています。予測結果が第一報と大きく異なるのは、長期変化の見積り方法を変更したためです。


 毎日の予測図は国立極地研究所の北極域データアーカイブでも見ることができます。

図2:2003年以降の最小海氷域面積(9月10日の海氷面積)の年変化。2020年の値は今回の予測値。昨年までの海氷域面積は気象庁による集計値

北極海の衛星モニタリングや海氷予測、ここで用いた予測手法についてご質問がある場合は、木村(kimura_n@aori.u-tokyo.ac.jp)までお問い合わせください。

この予測の基礎となる研究は、北極域研究推進プロジェクト(ArCS)で実施しました。

図4:予測された海氷密接度の平年値(2003-2019年の平均値)からの偏差。赤が例年より早く海氷がなくなる場所、青は遅くまで海氷の残る場所を示す。

図5:2018年, 2019年, 2020年6月15日の海氷の日齢分布。オレンジ色から赤色の領域が前年の夏を越えた多年氷、緑色から青色の領域が若い一年氷を示す。去年に引き続き今年も多年氷の領域が小さい。

北極海氷分布予報

2020年第二報:2020年6月30日


東京大学大気海洋研究所 木村詞明, 羽角博康